いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

第64回有馬記念観戦記~アーモンドアイ惨敗に、「競馬に絶対はない」という言葉をまた思い出した~


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 初の中山、2500m、紛れの多い有馬記念ではあるけれど、いまの日本最強馬・アーモンドアイが、まさか連を外す(3着以下になる)ことはあるまい。今年の安田記念では、さんざん不利を受けながらも大外から追い込んできての3着で、逆に「これで3着まで来るのか……おそろしい仔!」と思ったんだよなあ。
 本命党の僕には珍しく、前残りも想定して(あと、ダノンプレミアムがパドックで大暴れしているのをみて)、インディチャンプとアエロリットの馬連を持っていたんですよ。リアルタイムでレースを見た感触としては、「アーモンドアイ強かったけど、これはアエロが2着に残った、(馬券的には)やった!」だったのですが、VTRでみると、かなりきわどくなっていたことに驚きました。
 そして、秋の天皇賞では、内の狭いところから突き抜けての圧勝。
 
 有馬記念は荒れるレースではあるけれど、近年は比較的平穏におさまることが多いし、小回りコースでスローにもなりやすく、マイルくらいが適距離の馬でも馬券に絡んでくることが少なくないのです。
 アーモンドアイには、これまで対戦済の相手では、勝つことは難しいだろう。あの宝塚記念の圧勝劇が衝撃的だったリスグラシューが、「本物」だったら、もしかするかもしれないけれど。中山の適性は、アーモンドよりこちらのほうが高そうだし。

 パドックでも、本馬場入場でも、アーモンドアイは「順調」に見えたんですよね。最強馬に絶好調は必要なし。
 レース前までの様子が気になっていたサートゥルナーリアが、今回はパドックで少し泡を吹きながらも、そこそこ落ちついてゲートインできていました。
 結果的には、サートゥルナーリア、東京競馬場がダメなのかな……ファンファーレ直前になって、首をブンブン上下に振って暴れだすような馬がいると、馬券買うのに悩むよねえ。ダービーのときは、「詐欺だ!」って思ったもの。


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 キタサンブラックのときの「クイーンズリングの悪夢」を思い出し、アーモンドアイから馬連総流し+リスグラシューからサートゥルナーリア、スワーヴリチャード、キセキ、ヴェロックスとの馬連まで購入。

 皆まで言うな、そう、こんな買い方をしていたら、当たっても儲かるわけがない。それでも当てたいんだよ有馬記念

 どうしても当てたくて、アーモンドアイの複勝110円にすべてを賭けようか、とも思っていた。
 いまの銀行や投資信託の利子よりは高いし、アーモンドアイが4着以下ということはありえないだろう、と。
(やらなくてよかった……本当によかった……)


 アエロリットの思い切った逃げは、予想通りでしたが、まさかあんなに速くなるとは。
 下手に抑えるよりも、馬の行く気に任せたほうがいい、という判断だったのでしょう。
 そして、アーモンドアイは、ほぼ真ん中の外目。
 ルメール騎手は、内に閉じ込められることを心配していたようなので、位置取りも想定通りだったはず。
 道中の折り合いもついていたようにみえたし、4コーナーから直線で一気に先頭に出ようとしたときには、「2着には配当高めの馬、お願いします!」という気分でした。
 
 ですが……
 あれ、あんまり突き抜けないな、というか、伸びないんだが……
 いやちょっと待て、あなた本当にアーモンドアイですよね。アーモソドアイでした、とかいうオチじゃないよね。
 外からサートゥルナーリアが来てるんですけど。
 そして、その外から、すごい勢いで赤い帽子、リスグラシューが突き抜けていったんですけど。
 レーン騎手、まだゴールまでけっこうあるところから大喜び。

 しかし、僕にはまだやらなければならないことがある。
 2着はサートゥルナーリアが粘っているところに、武豊騎手のワールドプレミアが迫ってきた。
 いや、武さんやめて!勘弁して!
 けっこうバテているサートゥルナーリア。早く、早くゴール来て!


 ……結局、なんとかサートゥルナーリアが2着を死守してくれたおかげで、有馬記念は「昼食代くらいのプラス」になりました。
 もともとそんなに勝てるような買い方ではなかったので、当たってマイナスよりはずっとマシ。というか、助かった、外していたら、『M-1』観てもちょっとひきつった笑いになりそうだった……
 いやほんと、長年競馬をやっていて思うのは、タテ目大事、ということです。どんなに有力な本命馬でも、負けるときは負ける。
 終わってしまえば、馬連3000円もついて、リスグラシューをけっこう高評価していたのなら、もっと買っておけばよかった、って思うんですけどねやっぱり。
 リスグラシュー宝塚記念はものすごく強かったけど、本格化なのかどうかいまひとつ自信を持てなかったんですよね。ものすごい阪神巧者かも、と。オーストラリアのレースは環境が全然違うし、最近のオーストラリアのG1のレベルはあまり高くないしなあ。
 サートゥルナーリアなんて、ファンファーレが鳴ってみないとわからない馬ですし。
 考えてみれば、サートゥルナーリア3番人気って、みんな馬券上手いというか、命知らずというか。

 
 それにしても、アーモンドアイの惨敗には驚きました。
 いや、驚いたんだけど、負けるときはこういうものなのかな、とも思ったんですけどね。

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 後付けで考えれば、熱発で香港遠征を取りやめての急遽参戦、初の中山、2500m、久々の右回り、これまで戦ってきたなかでも屈指の好メンバーがそろったレースと、不安要素はたくさんあったんですよ。雨が降ってきたのも、影響したのだろうか。
 「人は信じたいものを信じる」というのを、競馬をやっていると、いつも思い知らされます。
 「アーモンドアイなら、大丈夫だろう」
 不確定要素に対しても、そんなふうに思い込んでしまうんですよね。
 逆に、東京競馬場がものすごく得意なだけかもしれなかった(ドバイでも相手を考えると、勝ちっぷりが良い、とは言い難かった)。
 ルメール騎手が指摘している、「道中でスイッチが入ってしまった(馬が行きたがって、折り合いを欠いてしまった)」という点に関しては、正直、そんなふうには見えなかったんだけどなあ。
 ただ、上位入選馬は、道中後ろにいた馬ばかりなので、圧倒的人気を背負って、勝ちにいく競馬をしなければならなかったのも敗因ではあったのでしょうね。
 後方で脚を溜めて外からの差しに徹すれば、2着まではあったかもしれないけれど、この舞台でファン投票1位、単勝1.5倍のアーモンドアイがそんな競馬をするわけにはいかない。
 アーモンドアイが参戦してきたからこそ、今年の有馬記念がこんなに盛り上がったのも事実です。
 
 リスグラシューの強さと、これで引退というのが綺麗でもあり、残念でもある、そんな有馬記念でした。
 これで「最強馬」として語り継がれるはずだったアーモンドアイは、これからどんなに活躍しても、「でも、リスグラシューのほうが強かったよね」と、ずっと言われ続けることになりそうです。
 勝ち続ける、最強であり続ける、どんな状況でも結果を出すというのは、なんと難しいことか。
 ディープインパクトは、本当にすごかった。ディープの子どもたちは今日、勝つことができなかったけれど、有馬記念で「ハーツクライに負けても2着」だったディープの強さを、あらためて思い知らされました。

 結局、競馬をはじめて30年近く、「競馬に絶対はない」と「この馬なら間違いない」の間を、ふらふらとたゆたい続けて、お金を溶かし続けているような気がします。

 アーモンドアイの快勝をみて、年を越そうと思っていた皆さま(僕もですが)、競馬も世の中も、生きるということも、本当に難しいですね。
 「絶対!」と思ったときに、待ち構えていたように、それは、手のひらから零れ落ちていく。やれやれ。


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開成調教師の仕事

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覚悟の競馬論 (講談社現代新書)

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