いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

ある大型書店のレジで起こった、悲しい出来事

 先日、仕事を終えたあと、ショッピングモールに入っている大型書店へ行ったときのこと。
 欲しい本を買ってレジで会計をしていたのだが、その途中で店員さんが文庫本を一冊、地面に落としてしまった。
 一瞬、気まずい沈黙が流れたあと、彼女は「ブックカバーはお付けしますか?」と尋ね、「いりません」と僕が答えると、そのまま落とした本を袋に入れた。うーむ。
 僕は基本的に、未開封とか美本にこだわるわけではない。でも、平積みの本を買うときには、一番上は避ける、というくらいのことはやってしまう。読むときも、書き込みはしないけれど、付箋を貼ったり、読みかけのところで伏せたりすることは多いし、本をものすごく丁重に扱うわけではない。
 とはいえ、レジに持っていった本を落とされたのに、何事もなかったかのようにふるまわれると、「何それ」と不快にはなった。
 結局、何も言わなかったのだけれど。
 人間だから落とすことだってあるだろうし、交換しろとか言うつもりはない。食べ物じゃないし、床に落としたくらいのことで衛生上の問題が生じることもなかろう。そもそも、雑誌などは運搬時には床に積まれることも多いはず。
 それでも、目の前で落とされて、そのままスルーされると、こんなにイラっとするものなのか。そもそも、この店員さんが、僕のことを、このKKOのレジ打つのいやだなあ、とか思っているのではないか、とか考え始めてしまう。被害妄想……であればよいのだが。
 ひとこと、「落としてしまったんですが、交換しましょうか?」と言ってくれれば、僕は「ああ、別にいいですよ」と返事をして、それでおしまい、という話なのに。
 あの一瞬の沈黙は、店員さんも「しまった」と思ったのだろう。そこで、相手が何も言わなければ、黙ってやり過ごそう、という姿勢を見せつけられたのは、本当に悲しかった。
 食品とか衣料品じゃなくて、本だからこそ、微妙な話ではあるよなあ。
 これで不快になる僕のほうが、おかしいのか。
 向こうも、言い出すきっかけを失ってしまっただけ、という可能性もあるのだが、まあなんというか、あの書店に行くのはしばらくやめよう、と思うくらいの出来事ではあった。


書店員の仕事

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