いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「押し寄せてくる津波よりも、避難所の人間関係のほうが怖かったんです」

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 この記事を読んで、避難所での食品アレルギー対策について考えさせられたのです。
 僕自身は、これといった食物アレルギーがないので、実感しきれないところがあるのだけれど、本人にとっては、まさに死活問題ですよね。
 アレルギーを持っている人の存在を認識し、災害時の対策も考えている自治体もあれば、遅れている自治体もあるようです。
 災害が起こらないのが一番良いのですが、災害時に備えて、主要なアレルギーに対する最低限の準備はしておくべきでしょう。


 ……と書いて、考え込んでしまったんですよ。「主要」とは何か、「最低限」とはどのくらいなのか?
 珍しいアレルギーだからといって、切り捨てられるのは「仕方がない」のか?
 でも、実際にすべてのアレルギーに対して、どんな非常事態でも対応できるようにしておく、というのは非現実的でしょう。
 ただ、こういう現実をみんなが知ることによって、今後は改善が見込めるのではないか、とは思います。
 もちろん、万全ではないとしても。


 そんなことを考えていたとき、池上冬樹さんの『ルポ 引きこもり未満』という新書で、こんな話を読んだのです。

 東日本大震災のとき、大津波警報が出て「逃げて!」と母親から何度も促されたのに、二階の自室から出てこなかった40代の青年のことを思い出した。
 その青年は、都会の職場の人間関係が原因で仕事を辞め、東北の実家に戻ってきて15年ほどひきこもっていた。青年は家ごと津波に呑み込まれたものの、奇跡的に流された先で救助された。
 青年は、家から出なかった理由を母親に尋ねられ、こう説明した。
「押し寄せてくる津波よりも、避難所の人間関係のほうが怖かったんです」



 僕も「人間関係が怖い」という気持ちは少なからずあるので(いざとなったら避難所に行けるくらいではありますが)、「避難所」なんてパーソナルスペースが極めて狭くて、濃密な人間関係が渦巻く場所に行きたくない、行けない、というのは共感できる気がするのです。行きたくて行く人もいないだろうけど。
 こういう場合、「じゃあ、避難しなくてもいいよ」と言うべきなのか、引きずってでも避難所に連れていくべきなのか。こういうのは「説得」できるものなのか。残された時間に限りがあるような状況ならなおさら、ですよね。
 こういう人のために、避難所に「人間関係が怖い人のためのパーソナルエリア」をつくるとしたら、みんな賛成するだろうか?


 食べ物についても、「身体的な影響が出るアレルギー食品には対応すべきだけれど、宗教上の禁忌食品は、非常時には対応できなくても仕方がないのでは」という意見もあって、僕はずっとモヤモヤしていたのです。
 宗教上の禁忌って、その信者ではない人にとっては「気持ちの問題」なのかもしれないけど、信じている人にとっては「現生での命」以上に大事なこともあるし、輸血を拒否して死ぬ人だっているのです。
 こういうのって、その枠外にいる人間からすれば、「なんで助かる命を自分で捨てるんだよ……」と食ってかかりたいくらいの気持ちになるのですが、相手にとっても「命をかけて守るべき大切なもの」なんですよね。
 もちろん、信仰心に濃淡はあるだろうし、「そうなったらなんでも食べる」というほうが、個人的にはホッとするところはあるのだけれども。


 こういう事例を積み重ねていくと、結局のところ、他人のことを理解する、あるいは、理解しているようなふるまいをする、というのは、自分に余裕があれば可能でも、厳しい状況になればなるほど難しい、ということなのだと思います。
 そして、「目に見える」ものに比べて、「見ただけではよくわからない」ものに関しては、「それは甘えじゃないか」とか、「こんな非常事態に何言ってるの?」という反応になりやすい。
 相手のことを想像し、感情移入すればするほど、何も言えなくなっていく。
 そもそも、「何も言わない」のが、正解ではないのか?


 「人それぞれ」「自己責任」で済ませてしまえばスッキリはするのかもしれませんが、アレルギーと同じで、自分がいつでも「値踏みする側」にいられるとは限りません。というか、いつかはみんな「悩ませる側」になるのです。
 「効率至上主義ではいけない」のか、「だからこそ、効率を重視すべき」なのか。


東京防災

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