いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

1980年代に「ゲーム少年」だった僕が観た『ドキュメント72時間「伝説のゲーセン 大人たちの闘い」』


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 高田馬場の『ミカド』といえば、「伝説のゲーセン」として知られているのですが、僕自身は一度も行ったことがないのです。


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 生きているうちに一度は……と思っていたのですが、今回、この番組で採りあげられていたんですよね。
 冒頭、店内にカメラが入っていくと、なんと『パワードリフト』が!懐かしい!これまだ動いてるんだよね……
 当たり前といえば当たり前の話なのですが、「伝説のゲーセン」も、昼間は閑散としてるのだな、というのと、中は案外「普通のゲームセンター」なのだな、と思いながら観ていたのです。
 とはいえ、あらためて考えてみると、この「普通のゲームセンター」というのが、僕が補導員の目をかいくぐって、ナムコの『ドラゴンバスター』やカプコンの『戦場の狼』をやっていた時代の「普通」であって、これだけ格闘ゲームとかテーブル筐体(アップライト筐体)がたくさんあるゲーセンって、最近観た記憶がありません。
 プリクラ、UFOキャッチャー、そしてちょっと大きなところでは、通信麻雀が主で、格闘ゲームシューティングゲーム落ちものパズルは、まあ、あることはあるけど……ああ、そういえば、マリオカートのアーケード版は子どもたちとよく勝負するな、という感じなんですよね。
 正直、クレーンゲームでお菓子や縫いぐるみを取りに行くよりは、格闘ゲームとかをやっていてくれたほうが、コストパフォーマンスが……って、子どもむけには、ちゃんと『妖怪ウォッチ』や『ポケモン』のカードゲームがあるわけで、ああいうゲームが1ゲームにそこそこ時間がかかるのは、親の懐具合を考えてくれているから、なのでしょう。
 あとは、メダルゲームのコーナーには、けっこう高齢の人たちがたくさんいて、のんびり遊んでいます。1円パチンコよりも、こっちのほうが負けないし、子どもたちの姿も見られて良いのかもしれないな。


 この『ドキュメント72時間』では、ゲームが心の拠り所になっている人たちがたくさん出てきました。30代前半で、結婚して子どもが2人いるという男性が、スーツ姿で、「今日は仕事に行くと言って家を出てきました」と言っていたのですが、これってネットで「妻は育児で大変なのに!」と炎上するパターンなのでは……と心配しつつも、気持はわかる、と思いながら見ていたのです。
「結婚する前までは、ゲームが自分のなかで一番だったのだけれど、今は子どもが一番になりました。でも、煮詰まってしまうこともあって……」
 この人、NHKに顔出しで出演して、だいじょうぶだったのだろうか……
 

 その他にも、「ゲームが仕事よりも大事」とか「ゲームには仕事にはない『勝ち負け』がある」なんていう人たちもいて、僕は時代の変化を痛感していたのです。
 僕が子どもだった頃、30年前くらいは、「ゲームは不良がやるもの」で、やさぐれた雰囲気がゲームセンターに漂っていたのだけれど、いまのゲーセンは、「家族やカップルが気軽に遊べるところ」になりました。
 「昔は、ゲームセンターで子どもが遊んでいると、『君、どこの小学校?』なんていきなり補導員に職務質問されて、補導されることもあった」なんて話をすると、「それ、どこの世界線ですか?」なんて若者に笑われることもあるわけですよ。
 本当に、そんな感じだったんだってば、ファミコン、プリクラ以前の日本のテレビゲーム界やゲームセンターって。
 「アミューズメント施設」と化してしまったゲーセンのなかで、『ミカド』には、「あの頃」の、行き場のない人たちが「ただ、そこにいることを許されている雰囲気」が感じられました。誰かと話したいとか触れ合いたいわけじゃないんだけれど、人がたくさんいるなかで、ひとりの自分でいたい。そんなことが長時間許される場所って、図書館か書店かゲーセンくらいだったんだよね。


 いまの時代は、通信対戦だって良いわけですよ。
 でも、なんとなく、あの場所に行ってしまうのって、僕には理解できるような気がします。
 ゲームセンターには「ゲームをする」という目的があるからこそ、適度にひとりになれる。

 そして、もうひとつ感じたのは、いまの時代というのは「ゲームのほうが大事だから、家族は要らない」ということが公言できるようになりつつある過渡期なのではないか、ということなんですよ。
 これまでの社会的な規範としては「いい歳して、いつまでもゲームばっかりやってるんじゃない!」だし、「大人として責任を持て」だったのだけれど、これからは、そんなに気乗りもしないのに無理に婚活して家族になって、ゲームしたいな、と思いながらオムツを替えるよりも、ゲームをやり続けて野垂れ死にする人生も「選択肢のひとつ」になっていくのではないだろうか。いまの20代くらいの人は、もう、そういう考え方に抵抗がなくなってきているのではないか。
 

 その一方で、『ミカド』には10代から20代前半の若者の姿がほとんどなくて(取材対象にならなかっただけなのかもしれませんが)、ああいうクラシカルな「ゲーセン」は、大人のノスタルジーを満たすための場所なのかな、とも感じたんですよ。
 まあ、デートに使ったり、子ども連れで行ったりする場所じゃないわな。


 この『ミカド』のような場所って、地方には存在しなくて、こういうとき「東京っていいなあ」って思うのです。
 プレイしている人たちの指さばきを見ていると(本当に上手いプレイヤーの指さばきって、美しいよね)、僕はたぶん、『ミカド』に行っても隅っこで落ちものパズルとかやりながら、横目で格闘ゲームに盛り上がっている人たちを眺めていそう、ではあるのですけど。
 『パワードリフト』久しぶりにやりたいなあ。今度、東京に行ったときに寄ってみようかな。僕の愛するゲーム機『アウトラン』とか、どこかにまだ置いてないだろうか。


 ちなみに、この「伝説のゲーセン 大人たちの闘い」の再放送は、2018年3月3日の午前11時25分からの予定だそうです。見逃した方は、ぜひ(有料オンデマンド放送でも視聴できるようです)。

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ゲームセンタークロニクル (~僕は人生の大半をゲームセンターですごした~)

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石井ぜんじを右に! ~元ゲーメスト編集長コラム集~

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