いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「タダで泊めて」というだけで不快感与えてる、ネットの「インフルエンサー」


www.huffingtonpost.jp
nlab.itmedia.co.jp


 僕の感覚でいうと、「宣伝してやるから、タダで泊めろ(しかも恋人同伴で5泊!)なんて、厚かましいにもほどがある」なのです。
 このホテル側の対応は、第三者的にはスカッとするのですが、僕はこのホテルには泊まらないと思います。
 リッツ・カールトンだったらどうするか、なんて考えるのには無理があるし、最初はこの不躾な問い合わせの名前は出さずに晒していたみたいではあるのだけれど。
 僕がこのホテルを利用したくない理由は、いくら気に入らない問い合わせだったからといって、顧客(ではない、という判断なのかもしれないけれど、顧客になるかもしれない人なわけですよね、とりあえずは)とのプライベートなやりとりを、名前は消しているとはいえ、相手の許可もなくみんなに公開するというのが不安だからです。
 ホテルの基盤って、安全性とプライバシーの堅持だと思うんですよ。
 犯罪行為で警察に通報したとか、多くの人が被害を受けるようなリスクがあるから公開した、というのではなく、「不当な(というか、厚かましい)要求だから反撃する」というのは、気持ちはわからなくないけれど、自分も何か気にいらないことをしたら晒されるのではないか、と不安になります。
 記事を読んでみると、このホテルは、そういう「尖った路線」を貫いているようなので、お好きな方はどうぞ、としか言いようはないのだけれど、「そういう炎上路線ホテルだから、厚かましいブロガーからの問い合わせが来るのではないか」とも思うのです。


fujipon.hatenadiary.com

 リッツ・カールトンクレドカードには、「We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen」というモットーが書かれてあります。
 そこには、「私どものホテルにいらっしゃるお客様は紳士・淑女です。そのお客様をおもてなしする私たちも紳士・淑女でなければなりません。ここが召使い(サーバント)との違いです」という思いが込められています。


 こんなことを書いても、「うちはリッツ・カールトンみたいな高級ホテルじゃないんだ!」って言われるのでしょうけど。
 このYouTuberって、これまでも同じような要望を他のホテルに出していたのではなかろうか。他所は大概無視するか丁重にお断りしていて(中には、受け入れたところもあったのでしょうか)、今回は晒されたから憤っている。
 

 このやりとりを読むと、インターネットの「口コミ」の時代って、もう過去のものなのだなあ、と痛感します。
 タダで食べさせてもらったり、特別扱いをしてもらえるマスメディアの「紹介」がバイアスだらけ(そりゃ「宣伝込み」ですからね)であることへのカウンターとして、ネットの「口コミ」がもてはやされてきたけれど、「インフルエンサー」としてレビュアーが影響力を持つようになると、彼らの多くがはじめたのは、宣伝を口実にした「たかり行為」でした。
 店のほうからも、そういう利益提供の申し出がみられるようになります。
 要するに、既存のメディアと同じことを、嬉々としてやりはじめたのです。
 もちろん、みんながそうではない、とは思う。
 自分が好きなジャンルのことを、しがらみなしに伝えたいから、ネットで活動している人たちもたくさんいるはず。
 でも、現実的に、それでお金をもらえたり、特別扱いしてもらう、という体験をすると、人は変わってしまう。
 本のレビューだって、「献本」してもらったら、やっぱり、批判はしにくいじゃないですか。
 実際に出版社と付き合いがある人なら、そこから出ている本の悪口も言いにくいと思う。 
 ネットでの「集合知」の優れたところは、そういう利益関係から自由であるところのはずなのに、評価され、餌付けされると、みんな飼いならされてしまう。
 「ユーザーのため」にレビューしていたはずなのに、いつのまにか、スポンサーの顔色ばかりうかがうようになってしまう。


 僕がこの記事を読んだときに気になったのは、この「たかりYouTuber」は、これまで、自分のSNSで、「タダで泊めてもらっていること」を明示していたのだろうか、ということでした。
 自分でお金を払って泊まったホテルに対するレビューと、お金をもらっている場合のレビューが「同じ」になるとは、僕には考えがたい。
 もっとも、これまで多くのマスメディアは、宣伝したい側と共犯で、しれっと「タダ飯」「タダ泊」を続けてきたわけで、その「悪しき慣習」に「有名ブロガー」も乗っかってしまっただけではあるんですけどね。


fujipon.hatenadiary.com
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 「乗っかってしまっただけ」と書いたのだけれど、それは、「ブログで個人が情報発信することの強み」だとされてきたことを捨ててしまう行為なのです。
 お金をもらって書いているのなら、一般の客と同じ目線で見ることは難しいよね。
 「宣伝・広告じゃないと多くの人が信じているからこその影響力」だということが、本人たちにはわからないのだろうか。
 「自分は特別」だと思い込んでしまうと、周りがみえなくなってしまうのか。
 それって、「マスコミ」と同じじゃないか。


 こういう事例をみるたびに、どんなにパソコンの機能やネットの回線が向上し、SNSが繁盛しても、「広告で収益をあげるシステム」が続いているかぎり、「ネットが既存のマスメディア化していくだけ」なのだろうな、と感じます。
 多くの人から、薄くお金を集めることによって、フラットな評価を得られるシステムのほうがユーザー側には望ましいと思うのだけれど、その試みは、現実的にはなかなかうまくいかないんですよね。
 むしろ、「企業案件でも面白くやっちゃう人がウケる」だけなんだよなあ。


 ヒカキンさんとかそうだし、ブログでは、ヨッピーさんのこの旅行の話など(これが「PR」かどうかは難しいけれど)。
yoppymodel.hatenablog.com

 
 ネットでの口コミには、そんなに宣伝にお金をかける余裕はないのだけれど、良いサービスをしている零細業者にとっての福音となりうる可能性がある(あった)と僕は思うのです。
 ところが、これも一般的なものになると、結局、お金もツテもある既存勢力のほうが有利になってしまった。
 映画にもなった、『マネーボール』と同じように。
 今はまだ、アイディアで一発逆転とか、「炎上商法」の余地もあるとしても。


 長い目でみれば、お金よりも信頼のほうがずっと価値があると考えているブロガー、アフィリエイターもたくさんいるはずなんですけどね(希望的観測)。


 ところで、これ、ホテル側から、「お金あげるから、うちに泊まって宣伝してください」と売り込んできた場合は、どうなんだろう?
 それは、いま、当たり前に行われていること、なんだよね。



リッツ・カールトンの究極のホスピタリティ

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マネー・ボール〔完全版〕

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