いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『ねほりんぱほりん「ネトゲ廃人」』の回を観て、考えたこと。

www4.nhk.or.jp
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ねほりんぱほりん』面白いですよね。
世の中の端っこを歩いている人たちが、実名、顔出しではちょっと話せないような生きざまをけっこう率直に語ってくれる番組です。
司会の山里亮太さんとYOUさんも「世間の常識や正しさ」を押しつけるのではなく、アウトサイダーたちの話に聞き入ってしまうくらいの「プチ・人間のクズ」っぷりを見せてくれ、「まあ、こんな生き方もあるよね」なんて、肯定的にとらえてくれるところもあって、僕のような「ちょっと生きづらい人間」にとっては、受け入れやすいのです。

で、今回の「ネットゲーム廃人」なのですが、証言者は30代の独身男性(タイチさん)で、「1日にパソコンのネットゲーム(RPG)を20時間はやっている」そうです。ランキングで1位を維持するには、トイレに行く時間も惜しいのだとか。「一日16時間の壁を超えないと、『廃人』と僕は認定しない」と豪語していたのには驚きました。ゲーム以外の時間が4時間って、そもそも、それが全部睡眠時間だとしても、寝不足だよそれ。中国のネットカフェで、延々とゲームをし続けて亡くなった人のニュースを何年か前にききましたが、ゲーム過労死寸前じゃないのかそれは。

 
そもそも、働かずに親の臑をかじってゲームしているなんてどうよ、と思っていたのですが、タイチさんの話によると、ネットゲームをやりながら、攻略サイトをつくって、そこからの収益で生計を立てているのだとか。それなら、ネットゲームが「仕事」だとも言えますよね。そうか、極めると、そういう生き方もできるようになるのか。
ちなみに、時間がもったいないので、ゲームのキャラクターを操作しながら、サイトを更新しているそうです。それってもう、ゲームというより、重労働じゃないか、とも思うんですよね。
でも、このあいだみた、あのヒカキンさんの日常も、とんでもない働きっぷりだったので、人間といいのは「好きなことを仕事にする」と、ハードな生活でも、けっこう頑張れてしまうものなのかもしれません。


fujipon.hatenablog.com


「将来のことが不安にならないか」「寂しくないのか」という問いに対して、タイチさんは「いや、自分はこうして生きていくのがいちばん幸せだから、身体がつづくかぎりは、ネットゲームを続けていきたい」と仰っていました。
「形のないものにそんなにお金と時間をかけて……という人もいるけれど、人間がやることって、常に有益とか形があるとか限らないじゃないですか。それをやって楽しければ、それで良いんじゃないかな」
その言葉に対して、YOUさんは「わたしもお酒にものすごくお金をつかって、記憶を失ってるだけだものね、いくら使ったかなあ……」と納得していたのが印象的でした。
ここで、「そんな生き方はダメだよ!」って言う大人が出てこないのが、この番組の良さなのだと思います。
まあ、この人はこうして「仕事」にできるくらいの「トップネトゲ廃人」だけれど、大部分の人は、重課金、あるいはすごく時間を使っても、一番とか、お金を稼げるようにはならないのだよなあ、なんて思いもしたんですよね。


「ネットゲーム廃人」という言葉には、ネガティブなイメージがあるけれど、彼は「リアルでは他人とうまく話せないけれど、ネットではコミュニケーションをとりやすいし、ネットゲームには他人を褒める文化がある」と言っていました。
「ゲームには、努力が必ず報われる、やりつづければレベルが上がっていく、現実では努力が報われるとは限らない」という言葉もありました。
ああ、そういえば、「幸福の科学」は、ペーパーテストに合格すれば信者としてのランクが上がっていく、というシステムが、多くの人を引き寄せたんだよなあ。
今の社会って、学生時代に有用なスキルと、大人になってから必要なスキルに、異なっているところがあって(共通するところもたくさんあるけど)、困惑してしまう人がたくさんいるのかもしれませんね。僕は中途半端な学校秀才なので、コンプレックとプライドが交互に自分を責めてくる、みたいな感じではあるんですが。
この人くらいの甲斐性があれば、僕もゲーム廃人になっていたかもしれません。


この回を観ていると、これまで何度か言及したことがある、映画『マトリックス』の一場面を思い出します。
バーチャル世界では、人々は栄養を点滴のようなもので補給されながら、都会のスマートな世界の「人生のような夢」を観続けているのです。
そして、「現実世界」では、原始時代のような暮らしをしながら、人々が食べたり、歌ったり、交わったりしています。
僕はこの場面を観るたびに、所詮、人生なんて、脳で認識された情報にしか過ぎないのだから、こんなネチョネチョした原始的な社会で「生きる」よりは、ずっとスマートな夢を観続けていたほうが幸せなのではないか?と思うんですよ。
そして、引きこもってネットをやる生活というのは、「現実社会に生きにくい人」に、低コストで他人に迷惑をかけない(と自分で思える)生き方を提示してくれたような気がしてならないのです。
極論すれば、屋外で、リアルな人間関係で、あまりにも生きにくく、衝突が絶えないというのならば、ベーシックインカムのような形で最低限の衣食住とパソコンと電気を保証し、ネットの世界で、肉体が死ぬまで生きていく、というのが、いちばん「本人も周囲も幸せ」なのかもしれません。
まあでも、ネットを経由してやりとりするのも、とりあえずいまは生身の人間なんだよね。
ただ、もうすぐ「相手が人間でもAIでも区別がつかない」ような時代になっていくでしょう。
もう、そうしたい人は、ずっと、ネットの中で生きれば良いのではないか。
こういうのも「生き方の多様性のひとつ」なんだよね、きっと。


ただ、僕自身もブログという「比較的すぐに答えや反応が出るツール」にハマっていて感じるのは、こういう「結果を出すために長い積み重ねが必要とされない世界」に慣れてしまうと、人間全体を前に進めるような時間のかかる研究ができなくなってしまう(忍耐力がなくなってしまう)、ということなんですよね。
「そういうのが好きなタイプの人」というのも間違いなく存在はするのでしょうけど。


正直言うと、僕は今回、「ここまでやるくらいなら、今の仕事のほうがラクだな」と思いながら観ていたんですよね。
ネットゲームも、のんびりやれればいいけど、1位になろうとすれば、「才能と努力とお金の世界」なんだよなあ。


この番組、2017年11月19日(日曜日)の午前1時15分から再放送予定です(念のため言い添えておくと、18日土曜日の深夜です)。興味を持たれたかたは、ぜひ観てください。
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NHKオンデマンド」でも視聴可能です(有料)。
www.nhk-ondemand.jp


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