いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

夏休みの読書感想文に使える(かもしれない)定番名作10選


 もうそろそろ夏休みも折り返し、という感じですね。
 僕自身の経験からいうと、お盆を過ぎると、あとは急激に終焉に向かっていくような気がするので、そろそろ読書感想文にとりかかっておいて損はありません。
 ということで、読書感想文に使いやすい世界の名作を10作紹介してみます。
 これがベスト、というつもりは全くなくて、過去に感想を書いたもののなかで、中学生から高校生の読書感想文の宿題に使えそうなもの、かつ、大長編ではなくて、比較的読みやすいもの、という観点で選んでみました。
 「こんなの読書嫌いが読めるわけないだろ!」と言われるかもしれませんが、なんらかの参考になれば幸いです。
 そうでない方は、「また寝言かよ!」とご笑納いただけるとありがたい。
 初心者~上級者というのは、読む側が「本を読むことに慣れているかどうか」「長さ」を基準にしました。作品そのものへの評価ではありませんので念のため。


【初心者向け】
(1)人間失格
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 定番中の定番。
 あまりにベタすぎて選びにくい、というところもありますが、むしろ現在だと、ネット社会の「太宰メソッド」について考える、というアプローチで感想を書きやすいような気がします。「世間というのは、あなたでしょう」ってやつですね。



(2)老人と海
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 これも定番なんですが、正直、僕が学生時代にはじめて読んだときには、「漁師が魚をつかまえて、悪戦苦闘の末に港に戻ってきたものの、肝心の獲物は道中でほとんど失われていた」というだけの話で、こんなの感想の書きようがないではないか、と思ったものです。薄い本なので、これで感想文書ければラッキー!という感じだったのだけれど。
 後年、あらためて読んでみると、『老人と海』って、ストーリーというより、ヘミングウェイのディテールの描写のすばらしさを味わう本なんですね。
 感想文的には、「〇〇」という文章での活き活きとした描写に圧倒された、というような「読める人アピール」が効果的かも。



(3)異邦人
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 自分と世の中の感覚のズレとか、本音を隠さずに生きるということの是非って、堀江貴文さんやひろゆきさんみたいな人がそれなりに受け入れられている社会になって、さらに顕在化されているように思われます。



(4)トム・ソーヤーの冒険
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 みんなが読んでいそうで、あまり読んでいない名作なのですが、正直、今読んで面白いかというと、あんまりそうでもなく、読書感想文もちょっと書きにくいかもしれません。文学史的には『ハックルベリー・フィンの冒険』のほうが重視されているみたいですし。
 僕は子供のころアニメ版を観た影響もあり、こちらのほうが印象深いのですが。



【中級者向け】
(5)キャッチャー・イン・ザ・ライ
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 これも定番中の定番なのですが、実はそんなに読みやすい本でもないんですよね。
 僕の世代には、「小泉今日子さんの愛読書」として話題になったのですが、後年、ご本人が「実は(当時は)読んでなかった」と告白されています。
キャッチャー・イン・ザ・ライ」とはどういう人のことか、というのを自分なりに解釈すると、感想文は書きやすいかも。



(6)わたしを離さないで
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 少し新しめのものも入れておきます。
 生と死、命とは何か、医学の進歩とモラルの問題など、考えさせられつつも、エンターテインメントとしてもけっこうおもしろい。
 ちょっとSF的なのが、読書感想文には不適かもしれませんが。
 いざとなれば、映画版を観て書く、という「裏技」もあります。
 綾瀬はるかさんが主演していたテレビドラマもありましたね。
 個人的には、カズオ・イシグロさんは『日の名残り』のほうが好きなんですが、これは読書感想文には向いていないかも(アンソニー・ホプキンスさん主演の映画版もなかなか良いです)。


日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)



(7)夜と霧
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 定番中の定番なのですが、あらためて読んでみると、これは「ナチスの残虐行為の告発」だけではなく、「人間が生きているということ」について書いた本だということを感じます。
 
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 こちらもあわせて読んでみていただければ。



【上級者向け】
(8)月と六ペンス
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 これ、たぶん十代で読むと「なんなんだこの男、そして、どうしてそんなことするのこの女」って感じだと思うんですよ。
 でも、中年になって読むと、「なんだかよくわからないこと、自分にとってプラスにならないことを、それと知りつつやってしまうのが人間である」ということを痛感させられます。
 


(9)沈黙
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 マーティン・スコセッシ監督の映画版も公開されました。
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 「信仰」というものに対して、ピンと来ない時代の日本で生きているからこそ、一度は読んでおいたほうが良い本(映画)ではないかと思います。
 「神は沈黙しているからこそ神なのだ」



(10)星を継ぐもの
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 すみません、趣味で入れました。読むの大変だし、感想もそんなに書きやすくはなさそう。
 世代的には、昔この本を読んだ人がいま中堅くらいの先生になっていると思うので、ウケるんじゃないかな……
 たぶん、『銀河ヒッチハイク・ガイド』よりは、感想文向きなのでは、でも『銀河』のほうは「文明批評」として解釈し、押し切るというワザも使えそうではありますね。



 以上、とりあえず10作挙げてみましたが、自分で書いていても、あんまり「これだ!」って感じではないんだよなあ。
 むしろ、近年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』とかのほうが、感想文向きかも。そんなに長くないし。
 又吉直樹さんの『火花』とで書いても良いのだろうか。
 いまの読書感想文って、「どんなジャンルの本でもあり」なんですかねえ(そんなことも知らずにこんなエントリを書くな、という話ですけど)


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