いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

僕が20歳のときに知っておきたかった、「おまかせでお願いする」ための技術


anond.hatelabo.jp


 上記エントリを読んで。
 僕は、どうせ自分に似合う髪型なんてないし、床屋での会話も苦手なので、1000円短時間カットに行って、「このまま半分くらい切ってください」って言って済ませてしまうことが多いのです。
 昔、そういう速い安い、でも上手くはない、という床屋が普及する前は、髪を切りに行くのも敷居が高かったなあ。
 でも、この増田さん(『はてな匿名ダイアリー』を書いた人)に対する美容師の対応は、さすがにちょっとあんまりですよね。
「おまかせします」って言うようなタイプの人は、そんなに奇抜なものを望んでいないだろうというのは、想像できそうなものだし、「どんな感じがいいですか?テレビに出ている人で言うと?」と尋ねたり、カタログを見せる、とかいうアプローチもあるわけだし。
 オーダーした側とすれば「おまかせします」と言ったからには、犯罪的な行為でもないかぎり、「これじゃダメ」とは言い難い感じはしますよね、できあがったものに対して。
 ただ、「先生におまかせします」という人が、のちに「おまかせって言うのは、まかせるから最大限のことをやってくれっていうことだ」なんてキレることがあるのもまた事実。
 「おまかせ」っていうのは、相手の最大限の努力を引き出すための便利な言葉として使われがちです。
 この美容師さんは、以前それで痛い目にあっているか、この日、虫の居所が悪かったのではないかとも思うのですけど。


fujipon.hatenablog.com


 僕はこういう人間なので、あんまり主体的に細かく指示出しをして、みたいなのは、仕事だけでお腹一杯です。
 でも、40年以上も生きていると、そういう人間がうまく折り合ってやっていく技術、みたいなものも多少は身につけてきました。
 こういう「おまかせでお願いしたいとき」に、どうすればいいのか?
 

 いまの僕だったら、「何かひとつだけ、自分にとっての大事な条件を提示して、あとは相手に判断してもらう」ようにします。
 カウンターの寿司屋だったら、「飲み物込みで、だいたい1万円くらいの予算です。あとはおまかせします」、お酒だったら、「甘くなくて、そんなに高くない、おすすめの日本酒を」とか。
 そんなのみんなやっている、と言われるかもしれませんが、僕がそういう「相手に考えてもらう技術」を意識できるようになったのって、30歳くらいになってからでした。
 そもそも、そのくらいの年齢にならないと、値段が書いてない店に入るのも怖かったし(いまでも怖いし、チェーン店で済ませたいことのほうが多いのですけど)。


 ゼロから何かを考えるのって、けっこう大変なんですよね。
 小学校の作文でも「内容は自由」って言われると、書きづらいじゃないですか。何か「テーマ」が指定されているほうが、「書ける範囲は狭くなる」はずなのに、書き出しやすい。
 「とにかく好きにしていい」というのは、選択肢が多すぎて、何が求められているのかわからず、かえって困ってしまう。
 予算とか、味の好みとか、求めているイメージとか、何かひとつ「テーマ」「縛り」を指定すると、かえっていろんなことがスムースに行くんですよね。
 「〇円くらいで」って言ってしまったほうが、かえって向こうも「その範囲内なら、あれもあるし、こういう選択肢もあるな」と考えやすくなるはずです。無理なら無理って、言ってくれるだろうし。
「すべておまかせ」だと、「この客、主体性がないな」って思われてしまうのに、何かひとつ「テーマ」を出すと、相手は「自分がその条件下でできること」を良心的に考えてくれることが多いのです。


 まあ、こういうのは、ある程度信頼できそうなところでやったほうが良いとは思いますけど。
 僕も「店員さんおすすめの服」を買って、家人に「そのセンスはダサすぎる……」と苦笑されたことがありますし。


 冒頭の食事選びにしても、「和食のあっさりした感じ」とか「魚料理のおいしいところ」とか、そういうざっくりした「テーマ」を出されるだけで、「あとはこっちの仕事だな」と動いてくれる人は少なくありません。
 「おまかせします」のすべてが悪いのではなくて、使い方しだい、というところはあるのです。
 そこで先制してテーマを出してしまえば、あとは相手のターンで、自分は考えなくていいという気楽さもあります。


 そして、仕事を受ける側とすれば、「おまかせします」としか言わない相手にこそ、細心の注意を払って、相手が求めている「テーマ」を探り当てておいたほうが無難だ、とも思うのです。


宙船/do!do!do!

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