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いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「降ります!」って、どうしてうまく言えないのだろう?

www.yutorism.jp


 先週末、仕事で東京に行った際、「満員電車」を久々に体験することになりました。
 金曜日の夕方の都営地下鉄って、こんなものすごいことになっているのか……こんなの、スリとか痴漢とかに遭っても、身動きとれないぞ……
 で、まさにこの「降ります」と言わず、黙って通り道の人々を押しのけていく人たちを目の当たりして、驚いたのです。
 ラオウか!いや、ラオウだって「どけ!」くらいは言うぞ。
 大勢の人がそうやって降りていくなかで、「降ります!」って声をあげていたのは、ひとりだけでした。
 ただ、田舎から出てきて、満員電車にほとんど乗ったことがない僕の感覚からすると、「この状況というのは『降ります!』と叫んだところで、みんなこれ以上動きようがないので、降りようとすれば、自力で押しのけていくしかないのだろうな」とも思ったんですよね。
 正直、押しのけられることに慣れていない僕としては、あまり気持ちの良いものではありませんでしたし、せめて「降ります、すみません!」くらい言ってほしい、という気はしました。


 でもなあ、こういう「降ります!」のひと言って、言えない人にとっては、言える人が思っているよりも、ずっとハードルが高いんですよね。


以前、こんなエントリを書きました。
fujipon.hatenadiary.com


 僕はもともと人に声をかけるのが苦手なのですが、その理由として、「思い切って自分なりに大声を出して『すみません!』と言っても、声が小さいのか声のトーンが聞き取りづらいのか、無視されたり「はあ?」なんて聞き返されたりすることが多い、というのがあります。
 苦手なことを意を決してやったのに、かえってくるのは、「やっぱり自分の声や喋り方は聞き取りづらいんだな」というコンプレックスを再確認させられるような反応ばかり。落ち込みます。


 僕の妻は、軽く「すみませーん」って言うだけで、「はいはーい」って店員さんがやってくるのに……
 こういうのって、意識しはじめると、緊張してしまって、かえって声が出なくなってしまったり、声が裏返ってしまったり、異様な大声になってしまって恥ずかしかったり……


 なぜ「降ります!」って言えないのか、と考えると、そこには、「大声で何かをアピールするのは恥ずかしい」という気持ちと、「これまでの声を出しても状況が改善されなかったり、舌打ちされたり、イヤな顔をされたりした経験が積み重なって、無力感にさいなまれている」とのがあるのではないかと。
 

 本当は「降ります!」って言わなきゃ降りられないほど混雑している電車のほうが間違っているとは思うのですが、海外には「自分でドアを開けて乗り降りしなければならない電車」なんていうのもあるんですよね。


 欧米人って、エレベーターに同乗するだけでも、ほとんどの人が声を出してなんらかの挨拶をしてくれます。
 ああ、オープンなんだなあ、礼儀正しいなあ、と最初は考えていたのですが、挨拶をしない人がいると、すごく緊張した雰囲気になることに気づきました。
 どうも、ああやって挨拶をするというのは、お互いに「悪意はありませんよ」というのを確認するための作業のように思えてきたのです。
 見知らぬ人への「恐れ」が声をかける習慣をつくっているのも事実なのでしょう。


 以前、電車で居眠りできる日本という国は(安全+みんな油断していて)すごい!という話を聞いたことがあります。
 「降ります!」と声をあげずに、人を押しのけて降りてもトラブルにならないというのは、「黙っていても通じるのが当たり前の日本」ならではなのかもしれません。
 そういう国であることは、もちろん悪いことばかりではないんですけどね。
 そうやって、「声を張り上げて何かをアピールするのは、なんとなく恥ずかしい」「何、必死になってるの?」という雰囲気ができあがってしまうと、どんどん「降ります!」と言いづらくなっていくばかりです。


 こういうのって、できる人にとっては、「簡単なこと」なんでしょうけど、「拒絶される経験」をして、それがコンプレックスになってしまうと、本当に「声を出せなくなる」のです。
 それはそれで、リハビリをして声を出せるようにしておいたほうが、いろいろとラクではあるのは間違いないのですけど。


 個人的な印象としては「人前で声を出すことそのものが苦手」「聞き返されたり、拒絶されたりするのが怖い」っていう人は、そうでない人が思っているよりも、ずっとずっとたくさんいるんじゃないかという気がします。
 小学校でも、「静かにするトレーニング」だけではなく、「大声を出したり、騒いだりする練習」が必要なのかもしれませんね。
 あと「ボイストレーニング」とかも。
 バカバカしい、なんでそんなことまで、と思われるかもしれないけれど「声を出す技術」って、けっこう大事みたいですよ。


声優魂 (星海社新書)

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