いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『情熱大陸』のプロデューサーの「暴言」報道に、「プライベートモード」が失われた社会を感じた。


zasshi.news.yahoo.co.jp


 僕はこの「問題発言」をしたプロデューサー・福岡元啓さんの著書を読んだことがあります。
fujipon.hatenadiary.com

 福岡さんは、もともと文化系で、けっこうな苦労人だったみたいなのですが、「体育会系文化」になんとか適応して、『情熱大陸』のプロデューサーとして成功した人なんですよね。
 まあ、だからこんな失礼なことを言ってもいい、というわけじゃないんだけれど。
 むしろ、「文化系上がり」だったからこそ、こういう発言のリスクに無頓着だった、という脇の甘さはあるというか「豪快ぶりたい元文化系人間の陥りやすい勘違い」みたいな感じもちょっとするのです。


 ただ、「番組の試写室」というのは「公的な場」なのか、それとも「私的な場」なのか?という疑問はあるのです。
 というかこれ、このディレクターが「告発」しなければ、「飲み会でのノリと勢いの異性ネタ」みたいなものでしかなかったはず。
 「女子会」とか「男子会」とか、同性が集まるような飲み会って、ありますよね。
僕は女子会に参加したことはありませんが、男子会では、こういう「異性に対する、あけすけというか、無礼な品評」みたいなものは定番のネタなのです。
 僕の場合、そういう会話に積極的には参加しませんが、その場でたしなめる、なんて勇気もなく、聞き役として曖昧な笑みを浮かべている、ということが多いのです。
 僕が聞いたかぎりでは、女子会というのも(全部がそうじゃないとしても)、けっこう赤裸々な異性に対する言及が行われているのだとか。
 男女平等、ではあるのだけれど、そういう「しきい」みたいなものは、存在してはいるんですよね。
 それが良いか悪いかはさておき。
 そういうのは「ヘイトの温床」であり、悪いことなのか、それとも、「ガス抜き」として、機能しているのか。


 そういう場での会話って、誰かが、その噂話のネタになった人に「昨日、飲み会であの子があんなこと言ってましたよ」って告げ口をしてしまえば、「密室の会話」ではなくなってしまうのです。
 まあ、そういう口の軽い人は、以後メンバーから外される、というようなペナルティを受けることが多いのですけど。
 聞かされた側も「まあ、同性の内輪の会での話だから」と自分に言い聞かせながらも、聞く前と同じ感情で発言者を見られなくなる、というのも事実なんですよね。
 SNSの「プライベートモードでの会話」であっても、それが「情報漏洩」して、広く拡散されてしまえば「元々は内輪での会話だったんです」と言っても、火は消えません。


fujipon.hatenadiary.jp


 先日、立川談春さんの独演会に行ってきたのですが、そのマクラ(冒頭の導入部)で、談春さんが、こんな話をされていました。


「落語家っていうのは、けっこう危ないことも言っているけれど、それはあくまでも『ここだけの話』ということなんですよ。良いことじゃないのかもしれないけれど、人間には、世の中には、そういう息抜きの場というのも必要なんじゃないか。でも、こうして壁に囲まれたなかで、しかも8階で話しているのに、外に漏れて問題発言になっちゃうのは、ここで聴いてる誰かが(SNSなどで)話してるからですよ」


 というか、こういうのを書くのもまた「ルール違反」なのかもしれないし、冒頭のエントリにしても、僕自身が「拡散に寄与している」とも言えるわけで、なかなか難しいものではありますね。


 そもそも、「問題になるような話なんか、しなければ良い」のだろうし、福岡さんは、あまりにも「テレビ局という城壁」を過信していたのかもしれません。
 本質的には、これって、ディレクターが直接プロデューサー(福岡さん)に抗議すれば良い話なのに、こうしてメールにして一斉送信し、ネットで大きなニュースにまでなってしまうと、もう、無かったこと、聞かなかったことにはできなくなります。
 吉田沙保里選手にとっても、「またひとつ、くだらないネタにされたことを知った」という、どうしようもない話でしかないですよね、こういうのって。
 

 読んでみると、いくらなんでも、吉田選手を取材して番組をつくっている人としては、「不用意」だし「ゲス」だとしか言いようがないのだけれど、ここに書かれている範囲では「邪悪」というよりは、「不用意かつ失礼」くらいであり、「内輪のつもりの場所で、番組の試写を終えて、ちょっとリラックスしている状況だし、しょうもない下品なオッサンだなあ、くらいで勘弁してあげてもよかったのでは」と僕は感じました。
 それじゃ済まないくらいの「思い入れ」を持って、番組をつくっていたのだろうけど。
 率直なところ、これでいちいち辞表を出していたら、僕なんか辞表を書くのに毎日忙しくてブログを書いている時間なんてありません。
 自分の親しい人がこんなことを言っていたら、イヤだし、多少は傷つくだろうけど、世の中の「SNSにも書かれない半分」くらいは、こういう下世話な会話で回っている。
 吉田選手自身も、バラエティ番組などで恋愛観、結婚観などを半ばネタとして話しておられますし、あんまり「聖域化」されることを望んでいるとも思えないんですよね。
 立派なアスリートなんだから、そういうふうに茶化すのをやめろ!って言うけれど、プロスポーツの世界は「興行」でもありますから、「イケメン(美女)アスリート」なんていう見出しは腐るほど溢れています。
 スキージャンプ高梨沙羅選手が可愛くなった、というのも、「アスリートを容姿で評価する」という意味では、「失礼」にあたるのか?
(福岡プロデューサーの発言が「下品」であることは間違いないけれど)


 今回は、まさに「居酒屋の男子会(女子会)トーク」が拡散されてしまった悲劇、だとしか言いようがありません。
 でも、そういうのも、一度拡散されてしまったら、「無かったこと」にはできないんだよね。
 言った側も、言われた側も。
 世の中には「プライベートモード」は、もう存在しないと考えるべきなのでしょうけど、「誰も幸せにしないことを、わざわざ拡散しないという理性」が問われている時代なのかな、と思うのです。


biz-journal.jp


 今回の件に関しては、みんなけっこう冷静というか「こんなくだらない争いに巻き込まれた吉田選手が気の毒」という意見も多いようです。
 しかし、それはそれで、『デイリー新潮』への批判でネットが盛り上がり、この「くだらない話」が拡散される、というのもまた、ネットの特性ではあります。
 正直、ネットが一般的なものになって、いちばん「発展」したのって、「くだらないことに人間の時間を使わせる力」なのではないか、と最近思うのです。


 こんなことをしている間に、どんどん死んでいくのかと思うと、怖くなる。
 これをわざわざ書いている僕に言われたくはないだろうけどさ。


情熱の伝え方

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