いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「餌だけ食うのは有り」とか言う人を、信用してはいけない。

www.hitode-festival.com


どうしても書いておきたいので書きます。
このエントリ、内容的には、高額のセミナーの入口になる無料本を試しに読んでみた、というもので、何度も「セミナーへの参加はおすすめしません」と強調もされています。
そんなに悪意はなさそうだし、こういう「ちょっと怪しい商売を(身体を張って)試してみました」というネタは、そんなに珍しいものではないですし、けっこうニーズもあるんですよね。
まあ、「自分で試してみる」のは、リスクが高いので、誰かが「人柱」になってくれればありがたい。


多田文明さんというライターは、このジャンルで長年活躍(?)されています。
fujipon.hatenadiary.com
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ただ、個人的な見解を述べると、こういう「どんなものか興味本位で覗いてみよう」というのは、かなり危険です。


 僕の職場にも「マンション買いませんか」という電話がけっこうかかってきます。
 当直中などはただでさえピリピリしているところに、「○○病院の先生から患者さんの紹介のお電話ですが……」ということで電話をまわしてもらったら、「私、××という会社の者で、お得な税金対策としてマンションのご紹介を……」というようなこともけっこうあるのです。
 そんな迷惑行為をするような人たちから、何千万円もするようなマンションなんて買うわけねーだろ!と思っていたのですが、ある病院で、「ああいう業者から、マンションを買った医者(しかも2部屋も!)」と直接知り合って、愕然としてしまいました。その人は、本当に「優しくて気弱な人」だったので、なおさら居たたまれなくて。
 そのマンション、バブル崩壊とともに恐ろしいくらい値下がりしたそうなのですが、いまはどうなっていることやら……
 本当に「誰がそんなの買うんだ!」と思うけれど、実際に買った人がいる、というのもひとつの事実。
 こんなに電話した相手に迷惑がられ、文句もけっこう言われていると思うのですが、それでもこういう商売は無くなっていないのです。
 それこそ、マンションとかであれば「1万回電話して、1部屋売れる」くらいでも、十分「ビジネス」になるのでしょうけど。


 そんなに儲かるのなら、お前らが自分で買えばいいじゃないか、と思いますし、断りかたとして、「じゃあ、僕がお金を貸しますから、あなたがそのマンションを買ってください」って言えばいいよ、なんていうのが流布されていました。


 当直中に電話が鳴る、ということのプレッシャーは、やったことがないとわからないとは思いますし、患者さんがそれに配慮する必要はありませんが、マンション販売の電話とかは、いくらなんでも迷惑すぎる。
 なんとか、この業者をやりこめてやろう、とか思うこともあるんですよ。
 電話口で激怒している人も見たことがあります。


 「ああいう連中を、バカにしてやろう、正しい理屈で打ち負かしてやろう」、自分はちゃんとした判断力を持っているし、そういう商売であることも理解しているから」
 ……なんていう気持ちでついていくのって、けっこう危険なんですよね。


 ああいうセールスの人たちが持っている「買わせるためのノウハウ」っていうのは恐ろしいくらいの「洗脳力」があります。「頭がいい、あるいは世慣れている自分があんなのに騙されるわけがない」というのは、実は、けっこう無防備な状態なのです。
 もし契約しないで済んだとしても、一度関わってしまったばかりに、買わないにしてもひっきりなしに宣伝や契約の催促の電話がかかってくるのでは、まさに「割に合わない」ですから。


 彼らは日頃から否定的な反応には慣れていて、とにかく「接点」をつかめれば、そこからグイグイと侵入してこようとするのです。


 以前、マンション勧誘電話の人に対して、怒りのあまり、反論してしまったことがあるのです。


「そんなの儲かるわけないでしょう、本当に儲かっているんだったら、自分で買ってくださいよ」
「皆さんそうおっしゃいますが、実際に稼いでいるお医者さんもいらっしゃるんですよ。疑われるのも当然ですが、それでしたら、買われた方と一緒にご説明にうかがいます。いつ行ったらいいですか?」
「えっ、いや……そんないきなり来られても困るんですけど」
「でも、信用できない、と仰るんでしょう? そう仰るのであれば、話くらい聞いてくれても良いんじゃないですか? 実際にやっているお医者さんと一緒に行きますよ。ご自宅にでも」
「いや、けっこうです」
「そこまで言われては、われわれも引き下がれないので、ぜひ伺います。いつ行きましょうか!」(かなり強い口調で)


 結局、「ぜったいに来ないでください、もし自宅に来たら警察呼びますよ!」と言って電話を切ったのですが、これは本当に怖かった。
 もし会ってしまったら、脅されたり、洗脳されそうな雰囲気でした。
 というか、向こうが「訪問モード」に入ったときの迫力には、カタギじゃない雰囲気というか、身の恐怖を感じずにはいられなかったのです。
 こういう人たちに恨みを買ったら何かされてもおかしくない。
 怖くなって、会う約束をしてしまう人もいるかもしれない。
 とにかく、関わらないほうがいい。
 言いくるめたり、からかったりしてやろうと思って「接点」を持つこと自体が、かなりのリスクになるのです。


 ぜひ、このエントリを読んでみていただきたいのです。
fujipon.hatenablog.com


 
 これまで何度か紹介してきた、瀧本哲史さんの『戦略がすべて』のこの文章も、読んでおいて損はないはずです。

fujipon.hatenadiary.com


 「ネットで、なぜわざわざ『炎上』するようなことを書く人がいるのだろうか?」という問いに対して、瀧本さんは、こんなふうに答えておられます。
 一時的に来る人の数を増やして、広告収入を期待する、というのはアリかもしれませんが、「焼畑農業的」であり、そんなに長続きはしないでしょう。
 しかし、メールマガジンなどで、契約者への課金によって収入を得ている人にとってのは「炎上」は、自分へのイメージを悪化させるリスクが高すぎるような気がするのですが……

 ところが、実は有料課金型でも、「炎上」型コンテンツは有効である。
 たとえば個人が用意する有料コンテンツ、たとえば会員制ブログは、その質・量に比べて料金が割高であることが少なくない。実際、ネット上でもっと質の高いコンテンツを無料で見つけることは可能だし、既存メディア系の有料コンテンツなら質・量はずっと上だ。
 そんな個人の有料コンテンツを買う人間というのは、極めて少数の「信者」に近い読者だ。彼らは「炎上」するような過激なコンテンツをむしろ好ましいと考える。このような「特殊」な読者のコミットメントによって有料コンテンツは支えられている。
 電話での振り込め詐欺やネットの詐欺メールなどでは、話があまりにも不自然だったり、文章が少しおかしかったりすることが多い。しかし、こうした犯罪に詳しい人によると、実は普通の人が騙されないような文章を送ることは、「騙されやすい普通じゃない人」を抽出するための手段だという。もし、詐欺の途中でこれはおかしいと気付かれ、警察に届けられたりすると、詐欺師としては不都合だ。むしろ、最後まで騙し続けられる「カモ」を探すには、最初の段階で明らかにおかしいものを提示し、それでもおかしいと思わない人を選び出す必要がある。
 これと同じように、競合優位性がないコンテンツにお金を払う人を見つけるためには、最初の段階で明らかに「炎上」するようなコンテンツを提供し、それを批判するのではなくむしろ呼応するような読者だけを、効率的に探し出す必要がある。
 そして、そのような読者にとっては、多くの人の批判されても自分の意見を曲げない筆者はある種「殉教者」であるから、逆に信仰の対象となるのだ。かくして、「炎上」を好む読者は、有料課金型のコンテンツビジネスにとって、良い潜在顧客になるのである。

 id:hitode99さんは、こう書いておられます。

最近の釣り餌は美味しいので、餌だけ食うのは有りでしょう

でもうっかり針まで飲み込まないでくださいね

本自体は凄く良いものだし、来るメールや動画も面白いけど、基本的に高額セミナ―は全部詐欺、くらいのスタンスで疑ってかかるのが正解ですよ

そういうのにうっかり洗脳されてしまいそうな人にはおすすめしません

しかし何回も書いたように本自体は面白いので、その辺を理解した上で読むにはとても良いと思います


 率直に言いますが、大部分の人は「餌だけ食う」つもりで針まで飲み込んでしまいますし、ほとんどの人間は「うっかり洗脳されてしまう可能性がある人」です。
 

もしよかったら受け取ってみてね! セミナー勧誘メール来るし僕に報酬入るけどね!


 こんなふうに「軽く」書いておられますが、こういうものに「無料本だけ」のつもりで関わっても、まずロクなことはありません。
 というか、嵌ってしまったときのリスクがあまりにも大きすぎる。
 僕はid:hitode99さんがそんなに悪質な人間だとは思ってませんが、少なくともこの記事に関しては、あまりにも脇が甘いというか、せっかくネットで積み上げてきた信頼とか共感みたいなものをこんなふうにカネに換えようとする人なのか?と、がっかりしました。
 体験談、まではコンテンツとして「あり」だと思うのだけれど、「無料本だけならお得」みたいな紹介は、まさに「こういうセミナー商法の運営者の思うツボ」でしかありません。


ダイレクト出版 アフィリエイトセンター
ちなみにこれによると「アフィリエイト報酬は、一紹介あたり2000円」だそうですよ。
たしかにそれなりの額だけれど、それは、自分を信頼している人を売り飛ばしてでも欲しいカネなのかね。
そもそも、一紹介で2000円もくれるということは、それで紹介した人から、それに見合った「稼ぎ」を得ているってことです。


僕は広告やアフィリエイトを全否定しているわけではありません。
僕もGoogle AdsenseAmazonのアソシエイトを貼っていますし、多少なりとも書いたものに報酬があれば嬉しいよ。
お金というのは、わかりやすい「承認」のひとつでもあるしね。
「有用なものを、それを必要としている人に」売るのは真っ当な商売です。
でも、「なんでもあり」「お金になれば何を紹介してもいい」「騙されるほうが悪い」って、誰かの人生を狂わせる可能性が高いものを売ろうとするのは、「詐欺」とか「泥棒」だよ。


このhitode99さんの手法は「良心的にみえる」だけに、かえって危険だと思うし、受け入れがたい。
というか、今回はこのエントリを槍玉に挙げさせてもらいましたが、これは氷山の一角でしかありません。
hitode99さん個人への批判のような内容になってしまって申し訳ないけれど、こういうことを意識的、あるいは無意識にやっている人が、あまりにも多いのです。


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