いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

広島カープが、25年ぶりのリーグ優勝を決めた日、2016年9月10日。

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9回の裏、中崎がマウンドにいつものようにふてぶてしく立っていました。
僕は、やっぱり石原さんキャッチング上手いなあ、いいキャッチャーだよなあ、なんて思いながら観ていたのです。
あれ、25年ぶりの優勝のはずなのに、なんだか感動しないなあ、なんて思いつつ。
2アウトから長野選手がヒットで出塁して、2番の亀井選手がバッターボックスに。
3番って、あのカープの宿敵・坂本じゃないか……これは9回裏に逆転サヨナラスリーランを食らうパターンか?なんて、けっこう不安でした。


9回の裏、もう少しで優勝が決まるはずなのに、ベンチの選手たちもなんだか澄まし顔。
黒田さんが、なんだかとても透明な顔をしているのが印象的でした。
優勝できて嬉しいのはやまやまなんだけど、今日のピッチングには納得できていないのかな、なんて思ったりもして。
NHKの中継を観ていたのだけれど、解説の大野豊さんが、25年ぶりで、選手たちもほとんどがはじめての優勝だから、どういうふうに喜んでいいのか、わからないんじゃないですかね、と言っていて、そうだ、僕も優勝のときって、どんなふうに喜んでいいのかわからなかったんだ、って気がつきました。
亀井選手はけっこういい当たりだったんだけれど、ショート正面へのゴロで、スリーアウト。
「広島カープ25年ぶりの優勝」というテロップに「これ観てる人、みんなそんなのわかってるだろ!」とツッコミながら、僕は嗚咽していました。
なんだかね、25年ぶりの優勝っていうのを聞くたびに、25年前の優勝を決めた日のことを思い出してしまって。


あの日、僕は実家の応接間のテレビで、カープの優勝をみていたのです。
僕をカープファンにした父親も、いつもは「そんなにカープが負けてくやしいんだったら、巨人ファンになればいいじゃないか」と言うんだけれど、この日は上機嫌で。
母親は「とにかく長嶋さんは好き」というレベルの野球の知識しかなくて、僕のカープ好きには、ちょっと辟易していたのかもしれません。
あれから、25年か……
あのときは、まさかあれから25年も優勝できないとは、思ってもみなかった。
僕の両親もいまはこの世にいない。
25年って、長いよね。
きっと、この25年のあいだに、もう一度カープの優勝が観たいなあ、って思いながら命を終えて行った人も、たくさんいたのだと思う。
なんだかね、そんなことばかり頭に浮かんできて。
広島での小学校時代、いつもトランペットでコンバットマーチばかり吹いていたあの大のカープファンの先生は、いま、どこで何をしているだろう。
僕と20歳くらい違っていたから、もう還暦も過ぎているはず。


黒田が泣いていた。
新井も泣いていた。
9回の裏、石原さんのマスクの奥の目もうるんでいた。
緒方監督の優勝インタビューを聞きながら、「緒方さんって、こんな大きな声で元気にしゃべる人なんだ、中畑監督みたいだな」なんて思っていました。
就任一年目のことを問われて、「もちろん悔しかった。でも、悔しかったのは僕だけじゃなかった」というのを聞いて、なんだか僕もまた泣けてしまって。
去年、黒田が復帰して、マエケンとのダブルエースで優勝だ!とファンはみんな期待していた。
でも、優勝どころか、最後の試合でCS進出すら逃す期待はずれっぷり。
マエケンドジャースに行き、カープの夢は終わった、と僕は思っていたのだ。
黒田ががんばっても、Aクラスに入れるかどうか……


勝負って、生きているかぎり、投げ出さないかぎり、まだ、負けてないんだよね。
緒方監督が去年味わった屈辱と絶望は、本当にひどいものだったと思う。
いや、僕だって、緒方監督に罵声を浴びせる側でした。
でも、カープは、あきらめていなかったんだ。


カープファンにとっての東京ドームというのは、できれば避けて通りたい場所でした。
レギュラーシーズンではさんざんいい試合をしたあげく、最後はやっぱり巨人にやられるし、一昨年のCSファイナルでは、野球のクオリティが違う、とカープファンの僕ですらがっかりするような3連敗を食らいました。
でも、今日はそこで、黒田さんが勝ち投手になって、優勝を決めることができたのです。
マイコラスの球に食らいつく黒田さんの闘志に、胸がふるえました。
そして、こんな試合、カープにとっては25年ぶりの優勝がかかった試合なのに、東京ドームの巨人ファンは、懸命に声をはりあげて巨人の選手を応援していた。彼らは、巨人の選手たち以上に、巨人の意地に期待しているようにさえみえたのです。
カープファンもすごいけど、巨人ファンもすごいよ、このファンがいてくれるから、巨人は強いんだな。大嫌いなんだけど、今日はなんだか巨人ファンにはちょっと負けた気がします。


fujipon.hatenadiary.jp


25年ぶりの優勝は、なんだか不思議な気分。
「どんな顔をして喜んでいいのか、わからない」確かにそうだ。
そして、僕のなかでは、なんだか、25年間止まっていた時計が、いま、動き出したような感じがしています。
僕は両親の記憶に、なんでもっと子どもとして、ちゃんとしてあげられなかったんだろう、と思い続けてきた。
でも、25年たったんだから、もう、いい思い出にしちゃっても良いんじゃないかな。
なんのかんの言っても、僕はボロボロになりながらも、この25年、生きてきたんだ。
黒田さんの胴上げのとき、「これは引退フラグか?」とちょっと心配だったんだけど、新井さんも胴上げされて、ふたりが抱き合っているシーン、僕も一緒に泣きました。
ふたりも、これでいろんなことが「良い思い出」になったんじゃないかな。
個人的には、ずっとチームにいて、投手陣を支えてくれた石原さんも一緒に胴上げしてあげてほしかったな、なんて思ったんだけど。
ようやく言える、石原さんは、日本一のキャッチャーだ、って(ただしバッティングはノーカウントで)。


今日はもう、ビールかけを見ながら、僕もビール飲んで寝ます。

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