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いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

2016年4月20日、日本プロ野球界に生まれた「二つの記録」の話


2016年4月20日。
日本のプロ野球に、ふたつの記録が生まれました(そのうちのひとつは「生まれた」というか「厳密には『生まれなかった』のですが)。


ひとつめはこれ。
www.nikkansports.com


 この柳田選手の開幕からの連続試合四球記録、僕が住んでいる北部九州ではソフトバンクホークスが圧倒的な人気を誇っていることもあり、けっこう注目されていたんですよね。
 ちなみに、これまでの記録(18試合連続)保持者は、ホークスとも縁が深い、王貞治さん。
 この記録、選球眼の良さはもちろんですが、相手ピッチャーが「このバッターなら、勝負にいってホームランを打たれるくらいなら、フォアボールで勝負を避けたほうがいい」と思われるような強打者が有利なんですよね。敬遠とか、敬遠気味のフォアボール、みたいなものがたくさんある選手向き。
 

 とはいえ、こういう記録って、「連続試合ヒット」とか「連続試合ホームラン」とか「連続試合出場」に比べると、「すごいし、強打者の証明ではあるのだけれど、ピッチャーがボールになるコースに投げてくれないと達成しようがない」ものであり、どこまで称賛されるべきものなのか、微妙ではありますよね。


 映画『マネーボール』で広く知られるようになった、セイバーメトリクス(データを統計学的見地から客観的に分析し、野球選手の評価や戦略を考える分析手法)の世界では、ヒットも四球も含めた「出塁率」が重視されますし、すごい記録ではあるのですが、プロスポーツのロマンという観点からは、記録のために、「フォアボールを最優先に狙え!」っていうのもちょっと違うような気がします。
 柳田選手や王選手のようなホームランを期待されるバッターでは、なおさら。


 僕はちょっと、興味があったんですよ。
 柳田選手は、この記録を喜んでいるのだろうか? 記録更新を狙いにいくのだろうか?って。
 

 遊ゴロ、遊ゴロ、見逃し三振の後、9回の第4打席。初球を中前へはじき返す安打を放った。


 「(記録は)何にも思っていない。初球からガンガン振っていく」と話していた通り、積極打法を貫いた。


 フォアボールなしのまま迎えた9回表の第4打席。
 3−0とソフトバンクがリードしていて、柳田選手は、この回の先頭打者でした。
 初球を打って、追加点のきっかけとなるセンター前ヒット。
 試合展開からすると、これがこの試合での最後の打席になることは、ほぼ確実でした。
 チームも、絶対的ではないけれど、優勢な状況。
 記録を狙って何球かみても、責める人はいないでしょう。
 にもかかわらず、初球から打って、センター前ヒット。
 まあ、周囲はちょっと騒いでいても、柳田選手にとっては、こだわるような記録ではなかった、ということなんでしょうね。
 どんな形でも、プロ野球の世界に記録を残したい、という人の気持ちもわかるけれど、柳田選手は、そうじゃなかった。
 そもそも「連続試合四球」というのは、「すごい記録」ではあるけれど、その選手にとっては、「なんか微妙」ではあったでしょう。
 もしかしたら、王貞治さんの記録を超える、ということへの遠慮があったのかもしれませんが。
 それにしても、こういう、自分の力だけではどうしようもない面がある「記録」を取りざたされるのって、選手としては、けっこうやりにくいだろうなあ、と。


ふたつめはこちら。
www.nikkansports.com

(ところで、この記事で、ムスッとしている永川の肩に手を置いている緒方監督をみて、「去年とちょっと(良いほうに)変わったな」と感じたカープファンは、僕だけじゃないと思います)

 7回1死満塁から登板した広島永川が、史上95人目の通算500試合登板を達成した。

 しかしロペスに左翼席へ満塁弾を浴び、さらに1失点。節目の試合で炎上し「試合を決めてしまった」とうなだれた。


広島カープ永川勝浩投手が500試合登板。
1軍で、50試合×10年というのは、あらためて考えてみれば、ものすごい登板数です。
コンスタントに投げ続けなければ、投げさせてもらえる力がなければ達成できない数字。
永川さんといえば、ルーキーイヤーからリリーフとして大活躍していたのですが(一時期先発をやっていたこともありましたけど)、絶対的なクローザーから、球威が落ちたこともあり、セットアッパー、そして、いわゆる「中継ぎ」へ。
いまでも調子のよいときには三振を奪いまくる小気味よいピッチングをみせてくれることもありますし、30台半ばになっても、新しい球種を覚えて投球の幅を広げていく向上心を持ち続けています。
まあ、カープファンにとっては、最終回の「永川劇場」は、思い返せば懐かしいけど、リアルタイムでは「今日くらいは勘弁してくれ……」的なものではあったのですけど。


せっかくのメモリアルゲーム、ビジターの球場でDeNAのロペスに試合を決定づける満塁弾を食らい、なんとも微妙な表情で花束を受け取っていた永川さん。
もともと敗色濃厚な試合展開だったし、500試合目くらい、もうちょっと良い場面で投げさせてあげればよかったのに、とも思います。
でもまあ、こうして淡々と役割を果たしてきた人だからこそ、500試合も積み上げてこられたわけで。


現実というのは厳しいというか、なんというか。
ピッチャーでいえば、勝利数やセーブの記録であれば、喜ぶべき状況での記録達成になるのですが、この登板数の場合は、今日は満塁ホームラン打たれちゃったから、ノーカウント、というわけにはいきません。
よりによって、こんな日に……というのが、永川さんとカープファンの共通見解だったはずです。

それにしてもDeNAさん!
佐々岡さんの引退試合で、村田選手(現・巨人)が出会い頭にスタンドに叩き込み、みんなが唖然とするなか、真っ青な顔でベースを一周するという悲劇を生んだのも、DeNAさんとの試合だったんだよなあ。
「人生の中で、いちばんつらいホームランだった」


打たれたほうの佐々岡さんは、むしろサバサバと「かえってスッキリしたよ」って言っていたのですが。
rocketnews24.com


ピッチャーの記録でいえば、完全試合とかノーヒットノーランは「その試合」だけの話だけれど、こういう通算登板試合数、なんていうのは、その前の499試合の積み重ねがあればこそ、なんですよね。
その500試合目が折悪しくこんな結果になってしまったがために、なんだか記録そのものまで、ぼやけて見えてしまうのだけれど、これは、すごい記録なのです。
人間が、ちょっと変わった亡くなり方をすると、その「死に際」だけが取りざたされて、「生き様」がスルーされがちなのって理不尽だよな、と思います。

「メモリアル登板」としてお膳立てされるのではなく、ああいう場面で、ああいう使われ方をしたのは(結果的にはこっぴどく打たれたけれど)、永川さんがまだまだ「現役」であることの証明でもあるのです。
ちなみに、永川さんが満塁ホームランを打たれたあと、500試合登板記念の花束を渋い顔をして受け取っているのをみて、三塁側スタンドのカープファンは爆笑していたそうです。
もともと敗色濃厚な展開だったこともあるのでしょうが、こういう肝心なところでやられちゃうのも憎めないというか、やっぱり愛されているよなあ、永川さん。
これぞまさに「永川劇場」。


2016年4月20日に生まれた、「記憶に残る、二つの記録」の話でした。


赤い心

赤い心

赤い心

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