いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「なんでリスクをとらないんだ!」って煽ってくる人こそ、真の「リスクをとらない人」なんですよ。

delete-all.hatenablog.com


僕もこの「リスクをとらない人の文章は云々」というのを読んで、「ああ、そうだよなあ。僕が書いているものとか、良く言えば「両論並記」悪く言えば「どっちつかず」みたいなもので、僕なりに炎上リスクを回避しようとするあまり、クドくなってしまっているしなあ、と思ったのです。
もっとアグレッシブに攻めないと、人気ブログになれないし、ブログで稼げない……

北条かやさんが書いている「リスクをとっている人」には、イケダハヤトさん、はあちゅうさんなどの名前が挙げられていて、たしかにこの人たちは、しょっちゅう「炎上」しています。「書きたいことを書く、炎上を恐れない人」のようにも見える。
僕は家族の生活もあるし、炎上して仕事に支障が生じ、路頭に迷うようなことがあってもなあ……


しかし、あらためて考えてみると、「リスク」って何でしょうね。
他人を苛立たせるような言葉を吐くのが、「リスクを取ること」なのか?
そんなことないよなあ、と僕は思うのです。
僕自身が「保身」をはかっている人間なのは事実で、それを否定するつもりはありません。
でも、北条さんやイケダさんやはあちゅうさんは、本当にリスクを引き受けて書いているのか?


「何がリスクか?」というのは、そのときに置かれている状況・環境によって、異なってきます。
もしあなたが、サファリパークでいきなり車を降りてライオンのそばに行けば、たぶん、酷い目に遭うことでしょう。
これは、リスクを無視した、無謀な行為でしかない。
では、もしあなたが無人島に漂着して、連絡がとれず、助けが来る見込みもない。もう食糧も水も残り少ない、という状況に置かれたとしたら、「猛獣に襲われるのが怖いので、その場を動かずに焚き火をして、残りの食糧が無くなるまでその場で過ごす」のと、「猛獣に襲われたり、事故にあったり、毒のあるものを食べてしまう可能性があっても、周囲を探索に行く」のと、どちらが「リスク」が高いのか?


おそらく、多くの人は、後者の行動をとるはずです。
まだ、生きようと思っているのであれば。
前者であれば、束の間の安全は保てるかもしれませんけど、その後は死が確実に迫ってきます。


僕にとっては、嫌われて『炎上』し、家族に累が及ぶようなことを書くのはまぎれもなく「リスク」です。そんなことをしなければ、たぶん、しばらくの間は、仕事をして、子どもたちを飢えさせずに生きていける。


フリーライターという立場だと、「方法はさておき、とにかく目立って、多くの人に認知してもらうほうが、効率よく仕事をもらえる」はずです。
そういう状況では「真面目に、いろんな人を考えさせるような文章」を書いて、時間をかけて世の中にアピールするより、「他人を苛立たせたり、ツッコミどころがある文章を書いて、炎上させる」ほうが、よほど「近道」あるいは「短期的には生き延びる可能性を高めるためのふるまい」なんですよ。
だから、彼らは「リスク」を取っているわけではなくて、合理的に「安全策」をとっているだけです。
自分自身のプライドと書いているものを切り離していけば、炎上しても、あんまり気にならない。
自分自身の一部として、身を削るような思いで書いている人が調子に乗って「書きすぎてしまった」場合、炎上すると耐えきれずに退場することが多い。


でも、「思ってもいないことを金のために書く」人は、炎上によって傷つかない。

こうして、「書いている人の心」が入っていない文章ばかりが、集金システムとして、ブックマークを集め、リツイートされていく。

もちろん、そういうふうにして、「炎上ビジネス」が常態化してくると、周囲も飽きてきます。
炎上しやすい人をターゲットにして批判し、周囲の「そうだそうだ」という声を集めてPVを稼ぐという「炎上便乗ビジネス」みたいなものも出てきます。
彼らは、敵対しているように見えるけれど、共犯でもある。
そして、それで収入を得られるようになると、炎上関連産業みたいなものを維持するために、燃やし続け、叩き続けるしかなくなっていく。


でも、それで集まったPVで、本当に物が売れるのか。広告を出している企業のブランド力が上がるのか?

「文字通り身体を張ったコンテンツ」や、「現場に取材をして、生の声を広告収入のみで届けてくれる人」もいて、彼らは本当に「リスクを取っている人たち」だと思います。

現時点では、そういう人たちの文章による「稼ぎ」が、「炎上関連ビジネス」に負けてしまうことも少なくない。


僕は「とにかくPVを集めたもの勝ち」みたいな個人ブログの集金システムは、そろそろ限界じゃないかと思うのです。
PVって、わかりやすい指標だから重視されてきたけれど、単に「燃えている場所に集まってきた人」と、「そのブログのファンで、継続して読み続けている人」が、同じ1PVだから「等価」だとは思えないから。
そもそも、「ネット広告」というもの自体が、さらに洗練・合理化されていくはずです。


いちおう付記しておくと、僕はイケダハヤトさんが高知に移住して、地方移住の可能性をレポートされているのは「リスクを取って、興味深いコンテンツをつくっているなあ」と思っています。
セミナーとかnote稼ぎについては、「リスクを取っている」のではなくて、「短絡的なお金稼ぎの魔力にとらわれてしまった」と感じていますが。


「本当に役に立つ情報」を有料で提供して、ちゃんと稼いでいる人もいる。
リクルート』がつくられたとき、そんな「情報」なんて、金を出して買うヤツがいるものか、と言われていたそうです。
いまの世の中では「ネットで気軽にアクセスできて、本当に役に立つ情報」には、ものすごく価値がある。
もちろん、そうやって稼いでいる人たちは「PVアピール」とかはせずに、粛々と情報を更新しているだけ、なんでしょうけど。


世の中には「なんでリスクを取らないんだ!」って煽ってくる人がいますよね。
でも、それって、煽る本人にとっては「もっとも安全で、ラクに稼ぐための手練手管」でしかないから。
よく言うじゃないですが、「いちばんラクに稼ぐ方法は、『ラクに稼ぐ方法』というノウハウ本を書いてバカな連中に売ること」だって。
それで「よし!リスクを取ろう!」って、サファリパークで車から(自分の意志で)降りてしまっても、笑われるだけですからね。


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