いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

我が家に「ベータ」がやってきた日のこと

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えっ、まだ「ベータ」のカセット作ってたの?と思ったんですよね、このニュースを最初に見て。
VHSのカセットは、まだけっこう見かけるのですが、「まだ使っている人いるのかな」って思うものなあ。


我が家にビデオデッキがやってきたのは、僕が小学校5年生のときでした。
1980年代のはじめだったと思います。
新しい物好き、電気製品好きの父親が、「これで話題のテレビドラマを見逃さなくてすむ」と買ってきたのが、ソニーのビデオデッキ。ものすごく大きな機械でした。
テレビに接続するのも大変だったのですが、両親は機械音痴で、接続するのは僕の仕事。その後も、しばらくの間、ビデオデッキの予約録画ができるのは僕だけ、という時代が長く続きました。
ビデオカセットも、高画質だと2時間くらいしか録画できないものが、最初は1本2000円とかしていたんですよね。


ビデオデッキ発売当初は、「ベータは画質が良いし、カセットがコンパクト、ソニーもベータだし!」という感じで、6対4でベータ優勢、だと言われていました。
VHSのカセットって、弁当箱みたいに大きいし、ダサいよね(死語)!とか思っていたんですけどね。


それが、あっという間にVHS陣営が逆転し、ベータは斜陽に……
レンタルビデオショップに行っても、ベータはほとんどなく、悲しい思いをしたものです。
そして、「大黒柱」だったはずのソニーまで、VHSのビデオデッキを作り始めたときには、「もうソニーは信じない!」と憤ったものでした。
しかし、こうして今までベータのカセットを作り続けていたというのは、ソニーもそれなりに、責任みたいなものを感じていたのかもしれませんね。
年間に400本、デジタル放送も録画できないということであれば、この400本ですら、誰がどんなふうに使っていたのだろう?と疑問にはなるのですが。
400本しか作らないのなら、生産ラインは間違いなく大赤字だったろうなあ。


ちょっと話が先走ってしまいましたが、我が家にはじめて「ベータ」がやってきて、テレビ番組を「録画」した日のことは、けっこう鮮明に覚えています。
水谷豊さんの『熱中時代』の先生編を録画してみたんだよなあ。
当時のテレビ番組は「放送時間にテレビの前にいないと、観ることができない」ものでした。
「目当てのテレビ番組を観るために、早く家に帰る」というのが、当たり前だった時代です。
もし見逃したら、テレビドラマであれば、いつになるかわからない再放送をひたすら待つしかなかった。


それが、好きな番組を録画しておいて、好きな時間に観られるようになったのです。
これは、革命的な出来事でした。
それまでは、夜中にできることって、本を読むか、ラジオの深夜放送を聴くくらいしかなかったのに、「録画した番組を観る」というのが加わった。
早送りや巻き戻し、一時停止だってできる。
テレビ番組を、こちら側から、コントロールできるなんて!


しばらく経つと「レンタルビデオ店で、映画などを借りてきて観る」ということもできるようになりました。
それまでは、映画をテレビで観ようと思ったら、「テレビ放映されるのを待つ」しかなかったのです。


今となっては、当たり前だったことが、30年前には「劇的な変化」であり、「魔法のよう」だった。
あの頃は「どういう仕組みで、『録画』っていうのはできるのだろう?」と不思議な気分だったものなあ。
ちょっとしたタイムマシンを目のあたりにしているようでした。


当時のビデオデッキというのはチャンネル設定もめんどくさかったし、録画も予約時間とチャンネルをきちんと合わせて、最後に予約録画ボタンを押す、という、けっこう繊細な作業でした。
予約時間やチャンネルの入力ミスや、プロ野球中継の延長で時間がズレて、つらい思いをしたことが、何度あったことか。
カセットテープも、何度も「上書き」して使っていたのですが、何度も使っていくうちにビロ〜ンと伸びでダメになってしまったり(当時は「ワカメ」って言ってました)、消したくない番組まで、誤って消してしまったりと、トラブルが絶えなかったんですよね。


DVDという機械が世の中に出始めたときには「ふーん、でもそれ、ビデオデッキと何が違うの?」って思ったんですよ。
でも、使い始めてみると、その便利さは衝撃的なものでした。
なんだこの番組表を見ながら、「ボタン一発で録画」できる機能は!(ビデオデッキにもバーコードで録画機能みたいなのはあったんですが、僕は使った記憶がありません)
野球中継が延長されたときも、対応してくれるなんて!
そして、ハードディスク録画の便利さときたら!
カセットテープが要らないなんて、信じられない!


同じ「録画する」という機械でも、使い勝手が違えば、全然違う。
iPodのときも、そうだったんだよなあ。


ただ、ビデオカセットに録画しておいた、さまざまな「テレビ遺産」みたいなものは、結局、DVDに移さないまま散逸してしまったものが多かったんですよね。
データなら失われないだろう、と思いがちだけれど、記録メディアの変化で失われてしまうものって、けっこう多い。



「ベータ」のビデオデッキが最初に発売されたのは1975年だそうです。
僕が子どもの頃、大人になる頃には、宇宙に観光旅行に行けるようになったり、ロボットカーが町を往来しているような世界になるのではないか、と想像していました。
ときどき、「40年前もいまも、あんまり変わらないなあ」なんて思ったりもするのだけれど、「録画」する機械だけでも、これだけ進化しているのです。


変わらないのは、1日が24時間しかないこと、くらいかもしれません。
できることは増えたのに、それをやることができる時間は変わらない。