いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「妻へのDV疑いで、作家の冲方丁容疑者逮捕」に思う。

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注:冲方さんが本当にDVを行ったかどうかは、現時点では「疑いで逮捕」という状況なので、確定ではありません。


今朝のワイドショー(というか『とくダネ』)で、このニュースがけっこう大きく採りあげられていて、「本屋大賞」を受賞したときの冲方さんのインタビューも流されていました。
当時33歳(現在は38歳)の冲方さんは、優しそうな色男で、マネージャーでもある奥様との夫婦円満の秘訣を尋ねられ、「徹底的に喧嘩すること」「血も繋がっていないはずの相手を自分はこうまで罵倒できるのか」と穏やかに話していました。
そのインタビューには、隣に奥様が寄り添っていたのです。


この人が、DVとか、やるんだろうか?
天地明察』では、亡くなる日まで一緒だった、という渋川春海夫妻を描いていたのに。
でも、「穏やかで、優しそうにみえる人」のなかに、キレたら豹変し、暴力スイッチみたいなのが入ってしまう人がいることも僕は知っているので、「この人がそんなことするはずはない!」とも言い切れず。
そもそも、『天地明察』だけで冲方さんを語るのは不充分で、『マルドゥック・スクランブル』のようにSFで「バイオレンス」を描いた作品もあるし、『光圀伝』では、「徳川光圀の若い頃の暴力衝動」が書かれていたんですよね。
冲方さんは、作家としても多方面で活躍していて、テレビや新聞などでは『本屋大賞』を受賞した作家、として語られることが多く、ネットでは『蒼穹のファフナー』はどうなるんだ!と心配している人が大勢いました。
うーむ、光圀の「暴力衝動」を描いているうちに、取り込まれていってしまったのだろうか、それとも、もともと「そういうこと」が行われていたのだろうか。
これまでの状況はまったくわからないのですが、報道によると「4日前にもDVで一悶着あった」とされているようです。
夫婦喧嘩による偶発的な怪我で、「逮捕」されるというのは、ちょっと考え難いところがありますし、冲方さんの社会的な地位と、DV騒動によるイメージダウンの影響からすると、それを警察に訴えた奥様にとって、よほどのことがあったのではないか、などと想像してしまうのですが。


で、僕はこの事件を、他人事だとは思えないので、こうして、とりとめも無いことを書いているわけです。
僕自身は妻に暴力をふるっているわけではありませんが、夫婦関係ってやつの難しさ、みたいなものは、20年付き合っていても、日々痛感しています。
結婚って、「ゴールイン」って言うじゃないですか。
あれ、違うから。
あんなのは、チェックポイントの一つでしかない。
小学生の頃、50メートル走で、「良いタイムを出すためには、ゴールまで、と思って走ると最後にスピードが落ちるから、ゴールの先を目指して、を駆け抜けるイメージで」って言われたのを思い出します。


「夫婦なんだから、自分の家なんだから、リラックスしたい、言いたいことを言い合える関係でいたい」
僕もそう思っていました。
でも、それじゃあ、うまくいかないことが、たくさんの衝突の末、僕にもわかってきました。
たとえば、旅館でダラダラと昼寝をして過ごせるのは、お金を払って、身の回りのことを誰かにしてもらっているからです。
家で同じことをやろうとすれば、「誰か」が、サービスを負担しなければならない。
それでも、子どもがいないうちは、とりあえず自分の領域を負担しておけばよかった。
子どもがいると、また変わってきます。
「常に誰かが構っていないと、失われてしまう存在」というのは、予想よりはるかに、というか、予想なんて無意味だったくらいに、重かった(というか、今でも重い)。
いや、かわいいし、大きな生きがいのひとつ、なんですけどね、たしかに。
それでも、「夫婦」が「家族」になるというのは、とても重いことなのです。


お互いに年齢を重ねていくと、育児だけではなく、介護とか、今後の仕事のこととか、「負担」や「悩み」は大きくなっていく。
人と人との関係って、本当に難しくて、「貧しいときには一緒に手と手をとってやっていけた夫婦」が、裕福になったらギスギスしたり、ずっと子どもがほしいと言っていたにもかかわらず、子どもができたら、その環境の変化によって、ずっとイライラしっぱなし、になったりもする。
冲方さんとマネージャーの奥様の関係も「人気作家になること」で、変わってしまったのかもしれない。


人にとって、夫婦にとって「自分たちの自由にできる時間」って、本当に少ない。
たぶん、まだ結婚していない人たちがイメージしているよりも、ずっとずっと短い。
その短い時間を、少しでも充実させるために、人は結婚する、のかもしれないけれど……


僕は、ネットで「結婚1年で、夫婦円満の秘訣を語る」ような人のことを、信用しません。
僕自身は、試行錯誤の連続でここまで来て、いろんな衝突や挫折や混乱があって、なんとか激流のなかでリングに立っているけれど、これからどうなるんだろうか、と不安でたまりません。


結婚生活とは「安定」ではなくて、「絶え間ないアップデート」なのだと思う。
むしろ、「安心」したり、「コツをつかんだ」と思ったりしたら、そこから綻んでいくのではないか。
慣れない家事をやりながら、「何を怖れてるんだ? 死ぬのは、たった一度だぜ」という、コブラの名セリフをよく口ずさみます。


どちらかが浮気をしている、とかそういう修羅場的な状況じゃなくても、「すれ違い」は起こる。
年をとると、昔は気にならなかったことが、気になってくる。
「その正直さが好き」だったのが、「デリカシーがない」と感じるようになる。


もちろん、「結婚してよかった」と思うこともたくさんあります。
とりあえず、何があっても、今夜帰るところがある、というのは、とても嬉しいことだし、「戦友」的な意識もある。


個人的には、「せっかくここまでやってきたのだから、結婚生活というものを、やれるところまでやってみよう、あるいは『攻略』してみよう」というような往生際の悪い決心もしているわけです。
そのうち、三行半をつきつけられそう、ではありますが。


作家っていうのは、ある種の異常性というか、狂気みたいなものを孕んでいる存在じゃないと「お金を払ってもらえるほど面白いもの、特異なもの」は書けないのではないか、などというのも、ちょっと考えたりもするんですよね。
この「DV騒動」で、冲方さんという作家や、その作品が「自粛」されるようになるのは、もったいとも思う。
でも、DVは大麻や覚醒剤よりも罪が軽いのか、とか言われると、そんなこともないだろうしねえ……


他の夫婦のことって、わかんないですよ、本当に。
自分たちのことだって、よくわかんないんだから。


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