いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

帰ってきた「家出息子」

参考リンク(1):涙の退団から7年…新井 広島復帰決断 年俸10分の1でも“勝負”優先(スポニチアネックス)
涙の退団から7年…新井 広島復帰決断 年俸10分の1でも“勝負”優先 ― スポニチ Sponichi Annex 野球

阪神を退団した新井貴浩内野手(37)が広島へ復帰することが10日、分かった。この日、広島市内で球団と話し合いを持ち、入団の意思を伝えた。合意した来季の年俸は今季2億円のわずか10分の1となる2000万円。涙の退団から7年、二度と戻ることはできないと思い悩んだ古巣への復帰を決断した。


 阪神を退団することになった新井選手に対して、松田オーナーが「戻ってくる気があるのなら歓迎する」なんて発言をしていたのをみて、「余計なこと言うなよ、自分が寛大な人間であることをアピールしたいんだろうけど、本気にして戻るって言い出したらどうするんだ?」なんて思っていたのですが、まさか、本当に戻ってくるとは……


 ネットでみた情報では、カープサイドは新井選手が阪神を退団するかもしれない、という情報を早い時期に入手していて、対応を協議していたそうです。
 緒方新監督は「若手を積極的に起用していきたいから」と、新井選手獲得には消極的だった、とされています。
 緒方監督の来季についてのこれまでの発言からも、信憑性は高そうです。
 そして、新井選手がFA権を行使して、「つらいです。カープが好きだから」と言いながら出ていった際に、緒方監督は、こう言っています。

 愛着という言葉はチームを出て行く人間は口にしてはいけない。
 チームに残る選択をしたやつが初めて口にできるもの。
 確かにウチの球団は他球団に比べたらお金がないのかもしれないけれど、それを分かったうえで自分の評価も上げたいし、優勝したいと思った。

 こう言った人が監督なんだから、さすがに戻っては来られないだろう、と。
 ファーストにはエルドレッドや外国人がいるし、栗原の復活にも期待したい。ファーストの守備は下手だけど、松山だっている。
 サードは堂林、梵、田中に小窪、木村省吾がいて(だれかひとりはショートに行くとしても)、期待の新鋭、鈴木誠也もいる。
 いまの実力だけでいえば、(守れるのならば)サードとしては新井選手が上なのかもしれません。
 でも、伸びてきている若手+梵・木村のベテランがひしめいているところに、37歳の選手をレギュラーで起用するというのは、チームの将来を考えると、あまりプラスにはなりそうもない。
 新井選手が、全盛期くらい、ホームラン王になるくらい打ちまくれば話は別なのでしょうけど。


 まあでも、そんな実力的な面はさておき、退団の経緯と、カープファンの新井への思いを考えると、「どのツラ下げて戻ってくるんだ?」と言いたくもなるのです。


参考リンク(2):新井貴浩のFA宣言と「糟糠の妻」が裏切られる理由(琥珀色の戯言)
新井のFA宣言と「糟糠の妻」が裏切られる理由 - 琥珀色の戯言


 これは7年前に書いたものなのですが(結局、僕はカープファンをやめていないのでお恥ずかしい限り)、新井選手というのは地元出身でもあり、「ダメだった時代からずっと見守ってきた愛すべき選手」だったんですよ。そして、そのダメだった時代をともに耐え抜いたという意識があるからこそ、愛着もひとしおだったのです。
 「生涯カープ宣言」的なものをしていた、というのもありました。


 それが、ああいう形で、「チームに愛着がある」とか言いながら出ていった。
 お前が出ていくのか、しかも、出ていくにもかかわらず、自分が悪者になるのがイヤなのか、カープ愛を語りながら。


 阪神に移籍したあとも「お仲間」の金本選手とつるんでいて、オールスターにファン投票で選ばれた際に、
 「カープにいたら、この10分の1も票が入らなかったと思います。あっ、これ、広島では放送されてないですよね」
と言ったという話が流布されました。
(僕自身は、この発言について、確たるソースは持っていません)
 ただ、これに関しては、猛烈にムカついたのと同時に「新しい職場に受け入れてもらうために、前の職場の悪口を言う人っているからな。まあ、阪神に馴染むための間違ったサービス精神みたいなものなのかもしれないな」とも思ったんですけどね。


 で、「優勝するため」に阪神に行ったはずなのに、結局優勝することもできず、チャンスでダブルプレーや三振でカープに「貢献」してくれている新井選手に、カープファンは溜飲を下げていました。
「あれは赤松とのトレードだったんだ!」と僕も思うようにしていました。


 ほんと、赤松の「縁の下の力持ち」っぷりと言ったら。


参考リンク(3):【読書感想】CS~カープ・ストーリー(琥珀色の戯言)
【読書感想】CS〜カープ・ストーリー - 琥珀色の戯言

(僕もこの本を読むまで、赤松がこんなふうに活躍しているなんて、知らなかったんですけどね)



 裏切った「糟糠の妻」新井に対するカープファンの負の感情は、7年経っても、消えることはありませんでした。
 同じ年にFAでメジャーリーグに挑戦した黒田博樹投手には、毎年「帰ってきてコール」が巻き起こるのですが、新井選手に関しては「どんどん阪神に居場所がなくなっていくのを、薄ら笑いを浮かべながら眺めて『いい気味だ』とつぶやく」というのが僕の恒例で。


 今年、新井選手の阪神退団が決まったときも「まさかカープじゃないだろう」というのが、大部分のカープファンの気持ちだったはずです。
 新井という選手には、昔の良い思い出と、その100倍くらいの恨みがある。
 カープファンのそういう気持ちを、カープのフロント、そして、当の新井選手だって、知らないはずがありません。
 まあ、守備の負担が減らせるかもしれないパリーグのチームに行って、なんとか2000本安打まで辿り着けるといいね。


 ただ、その一方で、阪神を退団し、「新井がカープに戻ってくるかもしれない」状況になったとき、この7年間、ただひたすら新井を呪っていたはずの僕のなかに、ちょっと違った感情が生まれてきて困惑もしたのです。


 もし、新井が戻ってきて活躍し、カープが優勝したら、それって、最高のドラマじゃないか?


 あんまり、現実的な想像ではないとは思うんですよ。
 そんな実力があると評価されていたなら、阪神であんなに年俸を下げられることもなかっただろうし。
 でも、長年応援していて、裏切られて、7年間呪い続けた男の野球人生の最後を「故郷」の人々が看取ってやるのも、悪くないんじゃないかという気がしてきたのです。
 自分でも、なぜそんなに寛大になれるのか、よくわからないんだけど。


 それまでずっと贔屓のチームの叩き上げとして応援してきた選手を、7年間「くたばれ!」とか「三振しろ!」とか「いつものゲッツー、毎度あり!」とか呪い続けてきました。
 でもねえ、いざ、その相手が行き場をなくしてしまうと、なんだか「どうした、もう終わりなのかよ、もっと三振してみろよ!」というような、妙な未練みたいなものが湧いてくるのです。
 人を愛し続けるのは難しいけれど、人を憎み続けるのも、けっこう難しいんだ。


 もともと地元の選手で、ダメな時期を一緒に過ごしてきて、愛着もひとしおだっただけに、もしそれが可能なのであれば、最後に「和解」できないものか。
 新井選手のためというよりは、新井をずっと恨み続けることに疲れた僕自身のために。


 自分から家を出ていって、外で好き放題やっていた息子が、長年の放浪の末、打ちひしがれて帰ってきたときの親って、こういう心境なのかな、なんて思ってみたりもするのです。
「過去のことは水に流す、とまで割り切ることはできない。でも、ここはお前の家であり、お前はうちの息子だ。だから、お前はここに居ていいよ」


「甘い」のかもしれないし、わだかまりは、そう簡単には解消しないと思うんですよ。
「おかえり」なんて言う気はない。
「何、いまさら帰ってきやがったんだ!肝心なときにいなかったくせに!」


 それでも、新井選手が、マツダスタジアムカープのユニフォームを着てバッターボックスに入ったら、僕は涙を流すと思う。
 遅いよ、そこは、お前のための場所だったのに。


 新井選手が、年俸10分の1の2000万円でもカープ移籍を「即決」したということに、僕は驚きました。
 阪神にいれば、大幅ダウンとはいえ、おそらく代打要員扱い+来シーズンでクビの可能性が高いとはいえ、7000万円くらいを提示されていたらしいのに。
 カープに来ても、レギュラーポジションが空いているわけではないことは、同一リーグでプレーしていたのだから、わかっているはずなのに。
 年俸3000万円くらいだったら、喜んで手を上げるチームは他にもあったはず。


 新井選手も、僕たちも、憎み合うことに、疲れてしまったのかもしれないな。
 そして、お互いの人生における「宿題」みたいなものを終わらせるために、ここで再会することになったのだ。


 ずっと二軍だったり、チャンスでゲッツーばっかりだったり、万が一活躍したら、「新井ブランド」を主張してまた出ていったりする可能性もあります。
 復帰した新井が活躍して、カープが悲願の日本一、みたいなシナリオが成り立たないのがスポーツの世界であり、人生でもあります。


 来シーズン、ヤクルトのユニフォームを着たバリントンと、カープのユニフォームを着た新井選手が対戦したら、どっちを応援すべきなのだろう?


 やっぱり、カープのユニフォームのほうを、応援してしまうのだろうな。
 あんなに嫌いだった人でも、「贔屓のチーム」に所属したというだけで、応援しないわけにはいかない。
 「チームを応援する」というのは、実に不思議なものだ。
 別に「ユニフォームという服そのもの」を応援しているわけではないのだけれど。


 現場での「扱いにくさ」を考えると、けっして「良い補強」とは言えないと思います。
 若手の出場機会も奪われることになる。
 

 要らねえよ!
 どのツラ下げて、いまさら戻ってきやがったんだ!


 ……いや、せっかく帰ってきたんだから、まあ、風呂に入って、メシくらい食ってけ。ここは、お前が生まれた家なんだからさ。



CS~カープ・ストーリー

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