いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

ワールドカップが嫌いなサッカー雑誌の記者、『本屋大賞』が苦手な書店員

参考リンク(1):ワールドカップと、本屋大賞は、同じ。 - あなたがわたしを抱きしめる日まで


参考リンク(2):「本屋さんが一番売りたい本」と、それ以外の本 - いつか電池がきれるまで



参考リンク(1)の話、サッカーはワールドカップ関連以外はほとんど観ませんが、本に関しては「『本屋大賞』のありかたについてひとこと言いたくなる」程度には「本好き」である僕にとっては、なんとなくわかるな、と思いました。


いやほんと、我ながら、この期間中だけ嬉々としてサッカーの話をしているのは、冷静になって考えてみると、自分でも不思議です。
普段は前後半あわせて90分の試合を「そんなのじっと観ているくらいなら、本一冊読めるよなあ」なんて思ってしまうのに。
AKBについても、総選挙のときにだけ熱く語ってしまうので、要するに「社会現象」ってやつを傍観者的にあれこれ言うのが好きなオッサン、というだけなのかもしれません。


まあでも、こういう大きなイベントっていうのは、その業界にとっては「裾野を広げるチャンス」ではあるのでしょうね。
「ワールドカップや本屋大賞にだけ興味を示す人がいる」というのは、見方を変えれば、「普段は全く興味を持っていない人の目を、この『祭り』のおかげで、こちらに向けることができる」とも言えますし。
そうしてサッカーを観たり、『本屋大賞』受賞作を読んだ人のなかで、ごくわずかな割合かもしれないけれど、Jリーグのスタジアムに足を運んだり、読書の面白さに目覚めて他の本を読むようになる人もいるわけです。
新規開拓って、大事だよね。
そんなことは、書店で働いていれば当然わかっていて、そのうえで、「一時の盛り上がりのわりには、業界全体として考えれば、効果が上がっていないように見せる」のだろうとは思うのですが。


ちょっと脱線してしまうのですが、僕はこれを読んでいて、ふだんから、その業界で働いていたり、内部にいたりする人間だからこそ感じる、「祭り」への不快感や倦怠感、みたいなものを考えてしまったんですよ。


たとえば、サッカー雑誌の記者って、みんな本当にワールドカップを楽しみにしているのだろうか?
もちろん、サッカー嫌いの人がサッカー記者になっているとは思えないのですが、彼らのなかには「ワールドカップだ!ついに来た!楽しみだ!」という人ばかりじゃなくて、「うえーまたあの忙しい地獄の日々が来るのか……俺サッカー好きなんだけど、どっちかというと、ふだんのリーグ戦とかをじっくり追いかけるほうが好きなんだよね……」って人もいるんじゃないかなあ。


書店員さんにも「『本屋大賞』って、あの一部のカリスマ書店員さんが作家とイチャイチャするやつだよね……あんなつまんない本を売りまくるのってつらい……そもそも、お祭り騒ぎになるのが嫌い……」っていうタイプの人がいてもおかしくない。
まあ、僕の勝手な推測なんですが、「その業界で日常的に働くことは好きなんだけど、『お祭り』的なイベントで、一時的にすごく多忙になったり、周りが妙に盛り上がったりするのは苦手。その業界のためになるっていうのは頭ではわかっているんだけどねえ……」っていう人は、いるんじゃないかなあ、と。
そういう人にとっては、周囲から「今度のあのお祭り、楽しみでしょ」って言われることそのものが、けっこうキツイのではないだろうか。


そういうひと、いますよね、いないのかなあ……


僕がそもそも「自分が好きなものに対しては」そういうタイプなんですよ……
どうでもいいものに対しては、「社会現象好き」なので、なんかもう矛盾しまくりなのですが。
(念のために書いておきますが、id:love-robberさんが「そういうタイプ」かどうかはわかりません。あくまでも「僕の場合の話」です)


これを書いていて、ふと思い出したのが、子供のころ、よく行っていた中華料理店の店主のことです。
その店、なんだかけっこうモダンな感じの中華料理を出していたのですが、なかなか美味しかったんですよ。
でも、ある日、注文するときに、接客をしていた店主の奥さんが、こんなお願いをしてきたのです。


「お客様、大変申し訳ないのですが、お料理の追加注文はなるべく無いようにお願いできますか……」


子供の頃の僕は、「えっ、なんで?」と、疑問でした。
まあ、確かに追加注文って面倒なのかもしれないけれども、店にとっては、売上はアップするし、そもそも、お客に「追加注文しないでください」なんて言うだけでも、けっこう印象悪いじゃないですか。
材料が足りないとか、閉店間際ならともかく、そういう状況でもなさそうなのに。


僕たちが「なんで?」って顔をしているのが伝わったのか、他のお客さんから何度も尋ねられているのかはわかりませんが、奥さんのほうから、こう説明してくれました。


「すみません……追加注文が入ると、店主の機嫌がすごく悪くなってしまうんです……」


まあ、「説明」としては、わかったようなわからないような話だっったのですけど、奥様の申し訳なさそうな様子をみて、それ以上は僕たちも何も言いませんでした。
内心「注文されるのが嫌なら、店やらなきゃいいのに」と、思ったんですよね、僕は。


家族のなかで、僕の父親だけは、なんとなく理解していたようで、「料理を作る手順が最初に決めたのと変わってしまうのが、嫌なんじゃないか。職人さんには、そういう人っているからなあ」と言っていたのを覚えています。


その店、数年後に無くなってしまったのですが、美味しかったし、お客さんも入ってはいたみたいなんですよね。
ただ、無くなる前の半年くらい行っていなかったので、無くなった原因はわかりません。
移転も、していないようでしたし。


最近、ある有名な歌人が、対談で「わたしは、自分の予定や手順が狂うのがすごく苦手で、突発的に何かが起こることに、すごくストレスを感じてしまう。それはアスペルガー的な性格らしい」という話をしていたのを読みました。
もしかしたら、あの店主も、そうだったのかな、なんて思ったんですよね。
(註:この「アスペルガー」という言葉は、医学的に診断をつけているわけではありません。僕は精神科医ではなく、この分野の知識にも乏しいので)


実は、急患や当直が苦手な僕にも、そういう傾向はあります。
もっとも、周囲に聞いてみると「急患や当直大好き!」ってヤツなんて、ほとんどいないに決まってるだろ、ということですし、実際のところ、自分が感じているストレスのようなものを、他人と比較するのは難しいのですけどね。
でもまあ、自分のなかでは、つらくてしょうがないときが、少なからずあるのです。


ワールドカップが嫌いなサッカー雑誌の記者とか、『本屋大賞』が苦手な書店員さんとか、実は、けっこう世の中にはいるんじゃないかなあ。
サッカーや本への愛情の欠落ではなくて、「イレギュラーな事象に対応することに、ストレスを過剰に感じてしまう」という理由で。