いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

NATROM先生とシロクマ先生の「出版社選び」

参考リンク(1):メタモル出版から本を出したわけ - NATROMの日記


『メタモル出版』というのを見て、「えっ?」と僕は思ったんですよ。
いやまあ、たしかに良書もあるのかもしれませんが、少なくとも医学系に関しては「ニセ医学」「医学的根拠やデータのない健康法」を推奨するような本が多かったので。

 出版社そのものはともかく、この本の出版に関わった人たちは信用できそうであると判断した。懸念があるとしたら、「ニセ医学」の本を出している出版社から「ニセ医学」を批判する本を出すのは、マッチポンプになりはしないか、という点である。出版社の商業主義にうまいこと乗せられているのかもしれない。ただ、その可能性はそれほど高くはなさそうだ。こう言っては失礼だが、メタモル出版から出版された「ニセ医学」本は多数あるが、ベストセラーと言えるものはあまりなさそうである。そもそもマッチポンプと呼べるほど燃えていない。「ニセ医学」批判本も売れるとも限らないし。


 出版社が意図的にマッチポンプを行っているのではなく、怪しい本を出している出版社の中にも良い本を出そうとしている人たちもいるのだと思われた*1。それならば、そういう人たちを応援したいと考えた。これが、メタモル出版から本を出した理由である。

NATROM先生が「トンデモ本」を出すとは思えませんし、それは長年のブログでの活動の信頼の蓄積によるものなのですが、率直なところ、「何もメタモルじゃなくてもなあ……」とは思います。
近藤誠先生を推しまくって大儲けした文藝春秋みたいに、大出版社だからといって、必ずしも学術的に正しい本ばかりを出版しているわけではないというのも、理解はしているつもりなのですけど。
(近藤先生の言説については、個人的には末期がんへの対処などは頷けるところもあるのですが、あまりにも極論すぎるし、医学的根拠がない話が多すぎる、というのが僕のスタンスです)


メタモル出版は、3年前に組織が変わったということで、これまでとは路線を変更していくらしいですし、「いろいろと問題があった出版社のなかで、『良書』をつくって売ろうとしている人たちを応援していきたい」という心意気には感服します。
しかしまあ、NATROM先生の本を「うちではこんな本まで出しているんですよ!ですから、この健康食品に関する本も『本物』です!」なんていうふうに利用されるんじゃないか、と危惧してしまいますし、そこまで積極的に利用されなくても、同じ出版社の本として近くに並んでいたら、「こんな本を出している出版社だから」と「トンデモ」を信じて買う人だっているかもしれません。
率直に言うと、心意気は素晴らしいと思うけれど、NATROM先生に、他に選択肢は無かったのだろうか?とか考えてしまうんですよ。
別に大出版社が正しいとは思わないけれども、変な色がついていないところから出したほうが、良かったのではなかろうか。
いまの「出版不況」「ブログ本不況」って、ここまで来ているのかなあ、とも思ったのです。


この出版の経緯を読んでいて、僕はid:p_shirokumaさんの、このインタビューを思い出したんですよ。


参考リンク(2):良い読者を念頭に書けば、ブログはアイデアを膨らませるワークショップになる―― シロクマ先生に聞く、単著の「ブログ大戦略」(週刊はてなブログ)

―― 実際には、単著を出すまでに少し時間がかかってますよね。


熊代:当時は「萌えるオタクの自己愛心性」という企画案で、あちこちの出版社に原稿の持ち込みをしていました。「萌え」と自己愛心性についてまとめた本になるはずでしたが、なかなか上手くいかなかったので2008年ごろいったん諦めて、ブログの更新に集中することにしました。


ブログは書いているだけでも面白いですし、なにより文章の練習になりました。面白がってやっているうちに、花伝社の編集者さんからオファーをいただいて『ロスジェネ心理学』(2012年)を出版できたというわけです。


熊代さんは、自分で企画を立てて、「持ち込み」もやっていたそうです。
そこまで出版に対してアクティブだったんだなあ、と、これを読んで少し驚きました。
そこまで、「書籍での発信」にこだわっていたようにも思われなかったので(それはNATROM先生もそうなんですが)。

サイトを見てみると、花伝社というのも、大出版社というわけではなさそうなんですけどね。
少なくとも、名前を聞いただけで、「ああ、あそこの本は……」と言われるような、「色つき」ではなかった。


熊代さんは「セルフプロデュース」を意識して行っておられるようにみえるのですが、NATROM先生の今回の出版の経緯は「オファーが来て、相手の熱意を感じたから」ということでした。
あくまでも僕自身の考えですが、もしNATROM先生が「自分から売り込みに出向いたとしたら」、もっと誤解されにくい形での出版も可能だったのではないか、という気もします。
本って、まずは売れないとはじまらない、というところはありますし、普通の人は、どこの出版社かなんて、そんなにこだわらない場合がほとんどなんだろうな、とも思いますけど。


本の内容については、まだ出てもいないので何とも言えないのですが、どういう反響がみられるのか、楽しみにしています。
「メタモル出版」のイメージが変わるくらいに売れて、「まともな医学知識」を多くの人に読んでもらえればいいなあ、とは思っているのですが。


「ニセ医学」に騙されないために

「ニセ医学」に騙されないために

ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く

ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く




【付記】
ちなみに、「代替医療の解説本」は、これまでにも出ているんですよ。
代表的なものがこちら。

代替医療解剖 (新潮文庫)

代替医療解剖 (新潮文庫)

でも、こういう本って、「ラクに読めるだけの、個人の思い込みで書かれたニセ医療推奨新書」に比べると、圧倒的に「読んでもらいたい人には、読まれていない」のだよなあ。