いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

なぜ僕はこんなに、知らない人から声をかけられるのがイヤなのだろう?

 数日前の夜、ドラッグストアに行ったのです。
 風邪を引いたのか、喉がけっこう痛くなってきたのですが、あいにく、家に常備していた鎮痛剤がなくなっていて。
 ああ、もっと早く症状が出ていれば、職場で処方してもらったのに、と思いつつ、当直の時間帯に受診するような状況でもなく、とりあえず市販薬を内服しておこう、と。

 それで、風邪薬のコーナーに行って、あれこれ成分を確認したりしていたところ、このドラッグストアに勤めているらしい店員さん(薬剤師さん)が、近寄ってきて、あれこれ説明してくれるのです。

「風邪ですか?」
「ええ、はい」
「症状はどうですか?」
「ええっと、のどがかなり痛いんです」
「それでしたら、この薬がのどの痛みには効果が強いですし、速く効きますよ」

などと、手製らしき「風邪薬の比較表」みたいなものを見せながら、説明してくれるのです。

ああ、親切だなあ……


と、思うべきところなのでしょうが、僕はどうもこんなふうに「商品をみているときに、近づいてきて、説明をはじめる店員さん」というのが大の苦手で。
もちろん、悪気はないというのはわかっているつもりです。
今回は、僕自身も専門的な知識を持っているので、「いやいちいち説明してくれなくてもいいですから!」って内心思っていたところもあります。
(その薬剤師さんが、変なことを言っていたわけではないですよ)


いやまあ、そのあと、「飲む点滴ってご存知ですか?」というセールストークがはじまったのに閉口してしまった、というのはあったんですけどね。
ああ、こういうところから、「点滴信仰」みたいなのは生まれてきているんだな、と。
さすがにそれには「知りませんけど、必要ないです」とつっけんどんに応じてしまいました。
水分が経口で摂れる状態なら、少なくとも、こうして普通に立って歩けて会話できるような状態であれば、点滴も経口摂取も同じなんだってば。
これが「お仕事」なんだろうけどさ。
医療側にも、すぐに改善するのが難しい状況の場合、「とりあえず点滴しておきましょうか」で、患者さんを納得させてしまっている部分があるのも、否定できない現実ではあるわけですが。


とりあえず、手近なところにあった風邪薬を手にとって軽く確認し、早々にその場を離れてレジに向かいながら、考えました。
「なぜ僕はこんなに、知らない人から声をかけられるのがイヤなのだろう?」って。
いやほんと、こうして文章にすると伝わりづらいと思うのですが、「自分に話しかけようとしてくる人が近づいてくるだけで、その場から逃げ出したくなってしまう」くらい嫌いなんですよ。


こそこそ避けたり、今回みたいに「いやもういいです!」みたいな感じになったりせずに、サラッと受け流せるくらいの度量を持ちたい、と思うのだけれども、僕の人生経験からすると、「頼みもしないのに近づいてきて、話しかけてくる人」というのがメリットをもたらしてくれたことは無いような気がします。
息子の赤ん坊からの人生を辿ってみると、小さな子どもというのは、大人からの無償の愛情みたいなものを受けとっているのかな、なんて思ったりもするのですが、大人になってみると、近づいてくるのは「何かをたくらんでいる人」であるような気がしてしまう。

個人的にはもう、理屈云々じゃなくて、生理的な不快というか、恐怖に駆られて、逃げ出してしまう、という感じなんですよね。
向こうだって仕事でやっているのだろうし、好きで声をかけているんじゃない、というのは頭ではわかっているつもりなのですが。


何かを薦められたときに、唯々諾々と「じゃあそうします」というのはイヤだけど、面と向かって「必要ありません」と拒絶するのもまた、ちょっとした自己嫌悪に陥るという面もあって。
近づいてくる人に相対するのは、どちらに転んでも、僕には良いことが何もない。
だから、接触そのものを避けたい。


向こうもそんなのはわかった上で「声をかける」という戦略をとっていて、統計学的にみれば「拒絶する人がいても、声をかけないよりも、かけたほうが全体としての売上はアップする」というようなデータが出ているのかもしれません。


こんな人間なので、「客引き」とか、姿を確認しただけでその通りには進入しないようにしますし、テレビで「寄っていかんね!」とあちこちから声がかかる「人情商店街」みたいなのを見るたびに「うわっ、これは僕には無理無理無理!」と内心悲鳴をあげているのです。


これって、「異常」だよねやっぱり……


モヤモヤさまぁ〜ず2』とか、観るのはけっこう好きなんですけどねえ。
僕はさまぁ〜ずには、絶対なれません……
狩野アナが番組で突撃した店を出るときに、丁寧に「ごちそうさまでした」「ありがとうございました」と声をかけているのを聴くたびに、実は、狩野さんってああいうのが「本質的には苦手」な人なんじゃないかな、と、勝手に想像しています。後天的な努力や技術でカバーしているだけで。
コミュニケーションが苦手な人って、「無視」か「バカていねい」かの、両極端になりがちなんだよね。

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