いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

僕と「ごちそうさま」の微妙な関係

例の「ごちそうさま」騒動を見て、僕はずっと考えていたのです。
牛丼屋で『ごちそうさま』というのが「常識」であるとする。
では、『ほっともっと』などのテイクアウト弁当店やファストフード店、コンビニで、商品を提供してもらったり、会計してもらったら、「ありがとうございます」というのは「常識」なのか?
あるいは、床屋で髪を切ってもらったときはどうなのか?


僕なりに考えてみると、「ごちそうさま」「ありがとう」を言う優先順位は、


高級レストラン>床屋>牛丼店>ファストフード店=テイクアウト弁当>コンビニ


という感じです。
僕の場合、実際の「ごちそうさま」「ありがとう」と言う境界は、牛丼店とファストフード・コンビ二の間にあります。
牛丼店では言うけれど、ファストフードやコンビニでは、ほとんど言うことはありません。
気持ちの良いサービスを受けたときとか、ちょっとトクしたとき(某コンビニチェーンのクジで当たったとき、など)、子どものためにちょっとスプーンを貸してもらったりしたときには、「ありがとうございます」って言いますけどね。


こういう境界がどこにあるのか?というのは、けっこう人それぞれだと思うんですよ。
トゥール・ダルジャン』や『すきやばし次郎』で食べた後に黙って現金なりカードなり差し出して、一言も発さずに店を出るというのは、かえってキツそうですが、牛丼チェーン店などの場合、僕のような「他人に声をかけるのが苦手な人間」は「コミュニケーションをとらずに食事ができる」というメリットを期待していることも多いのです。
もちろん、礼儀正しい人間のほうが望ましいとは思うのですが、無愛想にしていても許容されるところが、牛丼店の良い所、でもあるわけで。


たぶん、僕の場合は「その場で食べ終わるかどうか」で、「ごちそうさま」を言うかどうか決まっているような気します。
弁当屋で食べてもいない弁当を片手に「ごちそうさまでした」っていうのはヘンだし、「ありがとうございます」って良いものなのかどうか、相手がかえって困惑しないかどうか、とか、いろいろ考えてしまって。
とりあえず、僕の観測範囲では、弁当屋で商品を受けとって「ありがとうございます」という人は少ない。
近所の常連らしいおっちゃんとかは「ありがとねっ!」とかレジの女の子に声をかけたりしているのですが、僕が同じことをして、「この人誰?馴れ馴れしいヘンな人!」なんてことで「声かけ事案」になっても困りますし。


個人的には「牛丼屋で『ごちそうさま』って言わなくても、そんなに気にしなくて良いんじゃないか」とは思います。


そう考える理由のひとつとして、僕は昔、外食で「ごちそうさま」が言えない子どもだった、というのがあるのです。
僕の子ども時代なんて、今から30年以上も昔ですから、外食の頻度そのものが少なかったのですが。
あの頃は、食べ終わって、家族の前で「ごちそうさま」を小声で言うことくらいはできたのだけれども(そうしないと「食べ終わったのかどうかわからない」ということもあって)、知らない人に話しかけるということが、すごく苦手だったのです。
それこそ、書店のレジに並ぶのもすごく緊張するくらいで。


子どもの場合、レジに並ぶこともないし、店員さんに自分が「ごちそうさま」と言わなくても、親が言ってくれますしね。
高校時代は寮生活で、大学に入って一人暮らしをするようになって、一人で外食をするようになったのですが、「ひとりで食事をする人」だと思われるのが嫌で、テイクアウト弁当やファストフード、コンビニ弁当が「主食」の時代もありました。


それでも、少しずつ慣れてきて、ひとりで食事をするようになってきて。
ただ、レジで「ごちそうさま」って言うのは、なんとなく照れくさくて、「いいひとぶっているように見えるんじゃないか?」とか「馴れ馴れしいと思われるんじゃないか?」とか、やっぱり苦手だったのです。


そんな僕が「ごちそうさま」を言うようになったのは、大学の部活の先輩の影響でした。
その人は、男子学生たちがマンガを読みながら、覆いかぶさるようにして大盛りのご飯にガツガツ食らいついている定食屋から、喫茶店、焼肉食べ放題まで、ありとあらゆるところで、会計のときに「ごちそうさま」って言う人だったのです。
当時の僕には、その「ごちそうさま」が、なんだかとてもカッコ良く見えたんですよね。
馴れ馴れしくもなく、丁寧すぎて堅苦しくもない、ジャストフィットした「ごちそうさま」だったなあ、あれは。
それで、マネしてみようと頑張っているうちに、「ごちそうさま」と見知らぬ店員さんにも言えるようになったのです。


僕の場合は「カッコイイと思った他人の行動を、マネしてみた」だけのことで、「人間として当然の行為」だというような大げさなものじゃなかったし、あの先輩に出会わなかったら、今でも「ごちそうさま」って言わない大人だったかもしれません。
いや、さすがに親になったら、息子の前では、カッコつけて言うようになってたかなあ……


「ごちそうさま」って誰に言うの?作ってくれた人にだったら、周りに誰もいないひとりでの食事だったら、言わなくてもいいの?もし「食べられてくれる魚や肉に対して」だとしたら、気持ちはわからなくもないけど、自分が食べられる側だったら、「感謝の気持ちでごちそうさま、とかどうでもいいから、食わないでくれよ……」と思うだろうなあ……とか思うような子どもでしたし、言わない人も悪気があるわけじゃないんだよね、大概は。そういう習慣がないだけのことで。


もし、あの先輩がタバコを吸っていたら、僕も吸っていたかもしれないよなあ……


「ごちそうさま」と外食の際に言うのは「なんか礼儀正しく、育ちがよさそうに見える」という意味で、メリットはあるのだと思います。
 ただ、あんまりフランクすぎると、それはそれで他者との距離のとりかたが気持ち悪い、と感じる人もいるはずです。
 結局のところ、そういうのって、「何かのきっかけがあったかどうか?」だけなのかもしれないし、牛丼店で働いている人だって、そこまで期待していないのではないか、と思うのですよ。
 もちろん、「ごちそうさま」って言ってくれれば、ちょっと嬉しいでしょうけど、言われなくても、いちいち気にしてもいないはず。
 店員さんを見下して暴言を吐いたりするのでなければ、黙って食べて帰っても、別に良いんじゃないかなあ。
 それはもう、「本人の内心の問題」でしかないのだから、他人がとやかく言うことじゃない。
 外交交渉の場でも、宮中の晩餐会でもないのだから。


 ところで、これを書いていて思ったのですが、牛丼店で食事をした後に「ごちそうさま」と言う人の場合、「牛丼弁当をテイクアウトして帰る」とき、「ごちそうさま」「ありがとう」って言うのでしょうか?
 わたし、気になります