いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『電書はてなブログ 準備号』を読んでみました。

参考リンク:ブログを電子書籍にしたらどのくらい楽しいだろう? という実験をしてみることにしました。『電書はてなブログ 準備号』配信中です(週刊はてなブログ)



「はてなブロガー」の末端の一員として、気になったので購入し、Kindleで読んでみました。180円。
率直な感想を書きます。


180円という価格については、電子書籍慣れしている僕にとっては「うーむ、高くはないけれど、Kindleには無料本とか99円本にも、けっこう面白いものがあるからなあ」という感じです。
「cakes」だったら、同じくらいの価格で、プロ、あるいはセミプロの文章が、満腹になるまで読めますしね。


30分くらいかけて全部読んでみたのですが、けっこう面白かったです。
縦書きでレイアウトされ、リンクもきちんと張ってある「はてなブログの文章」は、「いいなあ」って感じがしました。
(全然友達じゃないんですけど)「おお、あの人の文章がっ!出世(?)したなあ!」なんて。
マンガ週刊誌を一冊買って電車に乗るような感覚で、「『はてな』の現在を切り取る」というのも、なかなか良いものです。
そもそも、「はてな」は、昔から「アクセスランキングも、人気投票も無い」というのがポリシーのブログサービスなんですよね。
ブックマーク数やスターの数が、人気の指標になっているところはあるのですが、露骨に「ランキング」を出したことはない。
それはたぶん、「はてな」の無名人ユーザーを大事にする、みんなフラットな立場で運用する、という姿勢の表明であり、それをずっと続けてきたというのは、一無名ユーザーとしては、本当に立派だなあ、と思うのです。


こういう企画に関しては、「どのブログの、どのエントリを選ぶか」というのと、「何本掲載するか」というのが編集する側の腕の見せどころ。
そして、「連載形式」なのか「読み切り形式」なのか、という選択もあります。


今回は10本で180円、普通に読むと、30分〜1時間かかります。
検索すれば、おそらく、全部タダで読めると思うけれど、個人的には「180円で、プロが選んだ面白いエントリ」が読めるのなら、まあ、そんなに高くはないか、という気はします。
その一方で、さきほど「cakes」の話が出ましたが、ネット上の文章やスマートフォンのアプリなどの「相場」と比較すると、「はてな」に思い入れがない人にとっては「これに180円、ねえ……」という感じなのかもしれません。

率直なところを言うと、僕も「はてなブロガー」のひとりなので、同じはてなで書いている人たちへの思い入れや、「自分が採り上げてもらう可能性」への色気があるから、「180円」「10本」を許容しているのです。
「1冊の電子書籍」としてみた場合には、あまり食指が動かないような気がします。
もしこれが「アメブロ」とか「ライブドアブログ」の電子書籍だったら、僕は読まない、たぶん。
それは、向こうからこちら側をみても、同じようなものなんじゃないかな。


むしろ、無料で定期配信して、「はてなブロガー」たちの小さな目標にするとか、「こんなの書いている人がいるんですよ!」という外部へのプロモーションに利用したほうが良いのではなかろうか。
お金の話をすれば、180円の電子書籍の場合、書いた人で売り上げを分けるとしたら、一部売れてひとり10円弱、というのが印税の相場になるはず。
(均等配分、だとするならば)
1万部売れても、分け前は、ひとり10万円くらいのものです(おそらく、そんなには売れません)。
それならば、無料配信とかメールマガジンのほうが、結果的には「はてな」にも著者にもプラスになるのではないでしょうか。

紙の本の場合は「アンソロジー」って、バラエティのある作品が一度に読める、という魅力があるのですが、この企画の場合は「何が選ばれたかわかれば、検索してすぐに読める」しねえ。


今回掲載されていたもののなかで、読んでいていちばん面白かったのは、
「ハイタッチ一つで人生観が変わってしまったかもしれない日」(バーチャルネットアイドルあままこ15歳)でした。
僕はこういう「個人的な日常の体験をある程度客観化し、文章にうまく落とし込んだもの」を読むのが大好きで、「はてな」の魅力って、こういう文章が読める頻度が高いことにあるんじゃないか、と思うのです。
「なぜ、人はアイドルや声優に夢中になるのか?」
僕はわからなかったし、この著者もわかっていなかった。
ところが、この体験を追っていくと「そういうものなのかもしれないな」と思えてくる。

あと、「「歌い手」だった私にかけられた魔法が解けた」(はてな匿名ダイアリー)も面白かった。読み終えたあと、かなり複雑な気分にはなったけど。
なぜ「匿名ダイアリー」が載っているんだ?内部情報で匿名の著者にメールして、許可を得たのか?はてなのセキュリティ意識ってどうなってんの?と思っていたのですが、読み終えてみると、その不安は払拭されます。
その一方で、「なんか肩すかし食らったような後味」にもなってしまうのですが。


ちなみに、はてなブログを代表する人気ブログ(もう名前挙げちゃうよ)『脱社畜ブログ』さんの、ここで採り上げられていたエントリは、あんまり面白くなかったです。
こうして「有料のマガジン」に掲載されてみると、「ああ、こういうことって、『ちきりん』さんとか『メイロマ』さんとかが、いつも言ってるのと同じだよね。こういうの、もう食傷気味……」と思ってしまいました。
もちろん『脱社畜ブログ』さんが全部つまらないというわけじゃなくて、なんでこのエントリが選ばれてしまったのか?ということなんですが。


読んでいて、あらためて思ったのは、僕が「はてな」を面白く感じているのは「個人的な体験」を読めるところで、「ライフハック」とかは、電子書籍にしてみると色あせてしまうな、ということでした。
いくら「はてなで人気」でも、それでお金を稼ぎまくっているプロが乱立しているフィールドに立つと、「そこでも突出する」のは難しい。
むしろ「はてな匿名ダイアリー的なもの」こそ、はてなにとっての最大にして最後のブルーオーシャンなのではないだろうか。


個人的には「いっそのこと『無料のはてなファン向けマガジン化』してしまったほうが、良いのではないかと思うんですけどね。いまは新しいブログが見いだされるのが難しい時代だから、無名のブログの「発掘」を「はてな」自体がやってしまうというのは、どうだろうか?


思いついたことを不躾にもいろいろ書いてしまいましたが、僕は良い企画だと思っています。
載せてもらった人は羨ましいなあ、とも。


今後の『電書はてなブログ』に期待しています。

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