いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「お客さん、なんで病院に行かれるんですか?」

先日、勉強会に出席するために、ちょっと離れた病院にタクシーで行ったときの話。
ショッピングモールで乗り込んだタクシーの運転手さんは、60歳くらいの男性だった。
「○○病院へお願いします」
そう僕が告げ、しばらく経ったあと、信号待ちで運転手さんは僕に聞いてきた。
「お客さん、なんで病院に行かれるんですか? 受診? お見舞い?」
「いや、仕事です」
そう答えて、あとはラジオの野球中継を聴いているふりをしながら、僕はずっと考えていた。
この「なんで病院に行くのか?」という質問って、なんか引っかかるな、って。
そもそも、「なぜ」という質問は、タクシーに乗ってきた客にする質問として、適切なのだろうか。
ディズニーランドとかだったら、たぶん「楽しいこと」をしにいくのだから話もはずむだろうが、「病院」に行く理由なんて、ほとんどの人は、他人に話したくないに決まっている。
まあ、単に、夕方とくに具合悪そうでもなく、焦ってもいなさそうな中年男が、タクシーで病院に行くという理由が、あんまり思いつかなくて疑問だったのかもしれないけど。
子どもでも生まれそうかと思われたのだろうか。

「いちいちそんな詮索すんなよ……」としばらくムッとしていたのだが、考えてみると、この運転手さんも、「もし急ぎの用だったら、それなりに対応しなければ」ということで尋ねてきたのかもしれない。
そうであれば、善意からであって(いや、もともと「悪意」はない雰囲気ではあったのだが)、苛立つ僕のほうが器が小さい、ということだ。

そんなことを思いめぐらしながら、到着前に出た結論は、「お急ぎですか?」とだけ聞いてくれれば良かったのになあ、というものだった。
それならば、僕も詮索されるめんどくささを感じずにすむし、運転手さんも「目的地までの運行の方針」を過不足なく立てられたはずだ。
質問は、シンプルに。
相手の「なぜ」ではなく、何を望んでいるかわかればサービスのためには十分なのに、「なぜ」にズカズカ踏み込むことがサービスなのだと思い込んでいる人は、けっこう多い。

「状況にあわせて、過不足無く質問する」というのはけっこう難しい。
世の中には、「よくぞ聞いてくださった!」と、自分や身内の病気の話をはじめる人だって、いるのかもしれないしね。

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